第18話 公爵の夢 ー公爵sideー
ちりりん
(あぁ、鈴が鳴っている)
ちりりん ちりり
(この音、聴いたことがあるが…)
「…ケイ様!」
!
「フリージア…?」
(なんで、なんでここに…)
あぁ、そうか。
これは夢だ。
金糸雀色に輝く髪も、
紅を閉じ込めた瞳も、
花のように笑うその笑顔も、
全て、今はもう。
夢の中のもの。
「ケイ様!こんなに綺麗なところに連れて来てくださって、ありがとうございます!私、すごく嬉しいわ。あたり一面お花が咲き乱れて、花に包まれているようです!」
いつかの春、フリージアを…ジアを、色とりどりの花が咲く花畑へ連れて行った。
花が咲いているだけなのに、ジアはとても喜んで、俺に礼を言った。
…あぁ、風が吹いている。
「きゃあっ!すごおい、これが海なんですね!私、生まれて初めてなんです。陽の光が水面にきらめいているわ!ステキ!」
夏の海へも連れて行った。
その日は朝から暑かったけれど、ジアは気にせずにはしゃいでいた。
…さざなみが押し寄せる。
「ん〜、美味しい!こんなにたくさんの果物、もらっていいのですか?葡萄にキイチゴ、梨に…栗っていうんですね!…めったに採れないだろうに。ありがとうございます。あ、そうだ。ケイ様、あーん…ふふ。一度やってみたかったんです」
秋だから、ジアにたくさんの果物を食べさせてやろうと思った。
ジアが自ら俺に葡萄やキイチゴ、栗を食べさせた。
…紅葉した木々が、ざわめいている。
「さむいですねぇ、あ、でも雪が積もっている!いきましょう!……ケイ様!できましたよう。見てください、雪でできた男の子!…え?ダルマ?…言いましたね!…えいっ!…あはははっ!」
雪だから外に行こうと、ジアは嬉しそうにしていた。
雪で人を作ったというが、まるでダルマだと言ったら、雪玉を投げられた。
…また、雪が降っている。
「ケイ様。…とうとう行かれるのですね。心配だけれど、ここで、待っています。お腹の子も、貴方様を応援しています。…ね、ケイ様。この子の名なのですが…」
戦場に行く前日、ジアに子供へつける名の候補を挙げられた。二人で何度も考えた名だった。最後は、ジアに任せた。彼女が待望した第一子だったから。
男ならばルーク、女ならばエリーと。
どちらも光の願いが込められていた。
戦時中、ジアが死んだと伝えられた。
子供は無事だとも伝えられた。
気が狂いそうだった。
それで俺は自暴自棄になり、手当たり次第に敵を殺した。
セスに止められるまで、それは続いた。
公爵邸に帰った。
戦争が終わった。
王は金輪際、俺に戦争をさせないと言った。
本当だろうか。
全く変わらない様に見えた我が家は、だけどやはり違っていた。
フリージアが死んでいて
ルークという名の子供がいた
俺は、その子供を恨んでいたのだろうか。
家に着くまで、腹の底が煮えたぎっていた。
だけど、うさぎの様に間抜けな面を見た途端、それは興味へと変わった。
俺と同じ漆黒の髪に、ジアと同じ紅の瞳。
ルークという名だった。
俺が初めてジアと会った時と同じ顔をしていて、つい笑ってしまった。あの時と、そっくりだった。
庭園でルークに父様と呼ばせた時、何故か嬉しくなった。俺には父と呼ぶ人はいなかったから、不思議だった。
誕生日だと聞いて、セスと贈り物を買いに行った。
商人を呼べばいいと言ったら、自分で探すのだからいいのだと怒られた。
十の品を買ったが、ルークはどれも喜んでいた。
家庭教師をつけた。
腕の立つ魔法士で、勉学も教えられるということで、講師とした。
その魔法士は…ケイシー殿は、ルークに会い、少し変わった。
ルークが誘拐された。
それを聞いた途端、何かが込み上げてきた気がしてて、気分が悪くなった。
すぐに探すよう、命じた。
ルークと、フリージアの墓参りに行った。
これが初めてだった。
彼女が亡くなってから。こちらに戻ってきてからずっと続けてきたが、何故かルークを連れてこようとは思えなかった。
苦しかった。
ジア、ジア。
天の向こうで、どうしているのだ。
あいたいんだ
地位も、名誉も、金も、
そんなものはどうでもいいから、君に会いたい。
きっとそう言えば、天の使いとなってしまった君は怒るのだろう。
俺は前までそう思ってたから。
でも、大切なものができたんだ。
君が遺していってくれた、俺たちの宝。
あの子は健やかに育っているよ。
元気だ。
だから
だけど、
あぁやっぱり、
「君に会いたい…。」
ちりりん。
『らあーらあーらあら、らん、らあ。』
どこかで、拙くて優しい子守歌が聞こえる。
『ケイ様。』
「…どうして、逝ってしまったんだ。」
『…ケイ様。』
「ジア…ジア、答えてくれ」
『わたしと一緒に生きてくれて、ありがとう。貴方のこと、…だいすきですよ』
「…あぁ、…。ジア。フリージア。」
愛しき人よ。
俺も一生、君を愛しているよ。
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フリージア
花言葉 あどけなさ
純潔
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