第14話 脱出
らーらー、らあら、らん、らー…。
『可愛い子ね…。ケイ様に似ているわ。』
咳の音。
『…あぁ、ごめんね、ルーク。…子守唄を歌ってあげるからね…。』
また、咳の音。
どさり。
少しして、誰か、子守唄の人物とは別の人の、叫び声。
視界の端に、ちらりと見える金髪の女性。
苦しそうに、うずくまっている。
誰か。誰か、早く、助けてあげて––––
「––––っあ!」
(暗い…?…小さな、部屋?あれ、ここ、何処だ?なんで俺、こんなところに…。)
頭に霧がかかったようにうまく思い出せない。
しかし、必死に考える。
(俺…は、!先生とステラと本屋に…居たら、突然鞭のようなものが腰に巻きついてきて…。)
「…そうだ、黒ずくめの奴らに誘拐されたんだ。」
どうして、という疑問と、どうすればという不安が俺を襲う。
今、俺は小さな部屋で手を縛られたまま、隅に転がされている…。
「…おちつこう。きっとふたりが…」
乱暴な足音がして、部屋の扉が勢いよく開いた。
咄嗟に、気絶しているふりをする。
「…まだ寝てんのか。…見れば見るほど、身なりのいいガキだなぁ。こりゃあ、商家か、貴族サマのとこの子息かな?」
野太い声がして、同時に、視線を感じる。
「…ん?…あぁ…。」
突然、ピシャリと頬を叩かれた。
「…っ⁈…なにすんだよ。」
「やぁっぱり、起きてた。狸寝入りかましやがって…。侮れねぇな。」
頬を叩いてきたのは髭を生やし、引き締まった肉体がみてとれる、中年ほどの男だ。
声も攫われた時に聞いたものとよく似ている。
「なあ、お前、何処のガキだ?身なりがいいし、そばにいた女からも、年頃の娘にはないような雰囲気があったもんでな、目をつけていたんだが…。」
「…いわない。おまえなんかに、どうしてみぶんをあかさなければならない」
「ふうん。…どちらにしろ、金にはなりそうだな。…お前を、奴隷商人に売るか、しらみつぶしに貴族に誘拐したと言いふらせば金は入るだろう。」
(!ゲス野郎…。)
「こっけいだな。かねがないからと、こどもをさらい、モノをぬすみ、ヒトをだまし、はずかしいやつだな。」
「…ガキが一丁前に説教すんじゃねえよ。…確かに虚しいかもな。だが、そうして生きてきたんだ。今更、どうしろという?お前が、自分1人の身も満足に守れないような奴が、どうしてそう言える?おれを、俺たちを。救えるのか?」
男はせせら笑う。
「そうだな。おれはしぬかくごはない、こんなことをする奴らのためにはたらきたくもない。」
「…おれにはまだできない。けど、みちびいてくれるひとはいる。その、きたいに、こたえなきゃ、なっ!」
俺は勢いよくのけぞり、男に蹴りをかます。
が、すんでのところでかわされる。
「ちっ!」
「はぁ⁈…ガキのくせに…!」
扉へ走り、体当たりをしようとしたが、髪を掴まれ引き摺られる。
「は、ははっ!まあ、こんなもんか。おいガキ、次抵抗したら、お前を––––」
「––––『お前を』?どうするって?」
部屋に、響いた声。
部屋の中から、響いてきた声。
「お前如きがぁ!」
バンっ
「『ガキ』と、ルーク様を呼ぶなぁ!」
扉から、無数の小鳥が勢いよく入ってくる。
(⁈この声…!)
「ステラ⁈」
入ってきた小鳥が、人の形を成し、言葉を発する。
「…はい!お助けに参りました!ルーク様‼︎」
それは、紛れもなく、ステラであった。
「ルーク様!」
ステラが叫び、剣を手に取る。
「…!まずは、女だな…!だが…。」
ばしん、と部屋にあった窓をやぶり、男は外へと出て行く。
「このっ!待てゲス!」
ステラは後に続いて飛び出る。
「ふぁっ?ステラ、おれの、こうそくを…うぅ。」
どうしようかと思ったその時、一羽小鳥がいることに気づく。
するとその小鳥が、喋り出した!
「『ルーク様。…ケイシーです。外にはまだ悪党の仲間がいるかもしれませんので、直接そちらへ行きます。』」
「えっ?でも、どう、やっ、てぇぇえ⁈」
ステラの時と同様に、小鳥がケイシー先生となる。
「…ふぅ。…お助けに参りました、ルーク様。いろいろとご説明致したいことがありますが、まずは脱出を。《カット》」
拘束が切れる。
「え⁈これ、まほうってヤツ⁈」
「…あ、はい…。脱出の為、ルーク様に魔法をおかけいたしますが、いいですね?」
俺は頷く。
「では…。《トランスフォーム》」
光が俺を包み、何かが変わる感覚がする。
気がつくと、小鳥へとなっていた。
「『このまま、あの窓から外へ出ます。出れるように調整しておりますので、怖くありませんよ』」
「『おおお!はい!』」
バサバサ!
飛んだ、と思った時にはもう、人の姿へと戻り、脱出していた。
「え⁈はや‼︎」
驚いていると、先生がそばに来て、ひざまづいた。
「ルーク様、よくぞ、ご無事で…!…本当に、申し訳ございませんでした。」
「…、ううん、おれがチュウイしていなかったのも、わるいし…。それより!」
「たすけにきてくれて、ありがとう、せんせい。」
「ルーク様…。いえ、僕は!」
「まあまあ!それより、ステラがしんぱいだよ。はやく、いかないとね。」
「…!…はい!」
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