第13話 事件

「ここが、ほんや!」

俺たちは本屋に来ていた。

しかし美しい本屋である。

扉はなく、開放的で店は亜麻色だ。


「…ルーク様、行きましょう。」

先生が俺の手を握る。


「こんにちは!」

「おやおや、こんにちは。」

「…本を、見に来て…。」


出迎えてくれたのは初老の男性。

見たところ、店主だろう。


「好きに見てくれていいよ。ただ、持ち帰ることは勘弁だがね。」

「…あぁ…。…はい。」

(先生、怖がってる?)

「あのう、おじさん。ずかんとか、ありますか?」

「おや、小さなお客さんだ。あるよ、もちろん。ええと、確かこっちに…。」


店主が案内してくれたのは、入り口近くの本棚。俺でも手の届く場所に本達がある。

「あった、あった。生物、植物、文化…それと、魔物図鑑なんかがあるよ」

「ありがとうございます!」

「…どうも。」

「いやいや。…堪能しなさいな。」


「…このように、まものとは、せかいがつくられたとき、まりょくからうまれたせいぶつであり、ふつうのどうぶつにはないトクチョウをもっている。たいていはモリやヤマ、どうくつなどにおり、ひとからはなれたところにすんでいるのである。」

……ほぉん。そうなんや…。


「すごいですね、せんせい!ずかん、すきだな。」

「…そうですね。僕も、図鑑は好きです。」

「せんせい、たのしんでいますか。」

「…え?」

「せんせいのこと、ハンナにきいたんです。いろいろ、あったとか。すみません、シツレイですよね」

「…いえ。…でも僕は、生きる目的ができたんです。この世界中のありとあらゆる知識を手に入れたい、と。…でも、」

先生が俯く。

「…でも、昔と全く変われていないことに気づいたんです。ルーク様に出逢って、そういう自分があると、わかりました。だから…、」


先生が言葉を続けようとしたその時、

ヒュンッ

と、小さく音がした。

「ルーク様!」

ステラが俺の名を叫び、手をのばす。

先生も、顔を真っ青にしている。

「…?…あ、れ?」


ふわりと、体が浮いた。

腰に鞭のようなものが巻きついている。

「な、に、」






——ドサッ

「…よしっ!、よしっ!!上手く釣れた!いくぞ、お前ら。時間が勝負だ!」

(…は?え、なんだこれ。なんだこれ!)

見知らぬ人間に小脇に抱えられている。

しかもそいつは、黒ずくめ。

周りには同じような輩が数人いる。

「こ、のっ。おまえら、なんだ⁈はなせよ!」

「すまんな、坊ちゃん。俺たちもこれしか道がねぇんだよ。…少しおとなしくしてな。」

ガッ、と、口に布を当てられた。

「⁈なに、しや、…が…る…。」

意識が薄れていく。

(くそっ…くそう…。せんせ…すてら…。)

がくり、と、ルークは眠りに落ちた。






「ルーク様!待て、お前らっ!」

ステラは店を飛び出し、ルークの消えた路地へと駆け寄る。

「うっ⁈…これ、罠か。」

路地への入り口には、足を入れれば縄により身体が釣り上げられるという罠が仕掛けられていた。

町の者にとっても、迷惑極まりない。

「…ルーク様は鞭のようなもので向こう側へ引っ張られていた…。この距離を。…なかなかの実力者、さて…。」

(一般人に被害が出ないよう、罠を解除しなければ。…とにかく、捜そう。本部は連絡して……あっ、ケイシー殿!)

「ケイシー殿!早く、ルーク様を捜しましょう!……なにを立ち尽くしているのですか⁈」

「……え、あ?…なん、なんで、ルーク様が。ど、どう、すれば…。」


「捜すのです!ルーク様を、お助けするのです‼︎貴方はそんなことも考えられないのですか⁉︎貴方は!!」

「…わたし、は…。ルーク様の、たった一人の先生、だから……」

二人は店を飛び出た。


「ケイシー殿、一応路地の罠は解除しましたが、この先罠が仕掛けられていない確証はありません。その為、回り道を致します。」

「…回り道、ですか。しかし、ルーク様はゆ、誘拐されました。時間が勝負です。なので、なるべく早く見つけ出さないと…。」

ケイシーは考える。

(誘拐、された。ルーク様が。…助け出すために、何をすれば良い?)

まず、目的は?

それは金が大きな可能性にあるだろう。

身なりでの判断・言葉遣い…もしくは、知っていた…?


「ケイシー殿、時間がありません。屋根を超えて行きます。…運動は?」

「…!…人並みに。しかし、魔法で体重の調整ができます。なので、僕を投げてください。…その方が早い。」

「そうですか。…ならば、貴方をあそこの屋根まで投げますので、上手く着地してください。いいですね?」

「…勿論です。…《ウェイト・アジャストメント》」


魔法のかかったケイシーを、ステラは抱きかかえ、近くの壁へと走る。

「…せーのっ。」

ステラは壁を蹴り、ケイシーを向こうの屋根へと投げ上げる。


「…完璧です、ステラさん!…貴女も!」

「今、そちらへ!」

続いてステラは壁を駆け登り、大きくジャンプをしてケイシーの側へと着地する。

「…ステラさん、以外と筋肉がおありで…」

「騎士なので!」

「…そうですね。…では、ステラさん。走りながらご説明致します。…ルーク様を、救う方法を。」









「……このように、致しましょう。」

「…了解です。絶対、ルーク様を、お救いましょう。」

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