第12話 さんにんで、
陽気な音楽が流れ、人々は快活に笑っている。
今日、俺はケイシー先生と騎士・ステラと共に、街へ出掛けていた。
ステラは去年、騎士になったという女性騎士である。
ピンク色の髪を高い位置で一つにまとめた、つぶらな瞳が印象的な騎士だ。
なんと騎士団長は公爵だそうだ。
(初対面のとき、ぞろぞろと人を連れていたのは騎士団長だからか。)
「おおおおぉ、おはようごさいまひゅ!るるる、ルーク様!」
「おはよう、ステラ。きょうはよろしくね。」
「は、はひぃ!」
(かみかみだなあ。緊張してるのが伝わる。)
ステラは顔を真っ赤にしながら挨拶してくれた。
「…おはようございます、ルーク様。えと、ステラさん。」
「あ!おはようございます!せんせい!」
「おはようございます!ケイシー殿!」
「今日は…街を散歩すると、聞きましたが」
ケイシーは気まずそうに目を逸らす。
「はい!いちじかんだけですが、たのしみましょうね!」
一時間というのは、公爵が絶対条件としてだしたものだ。
もしも身分が知られれば誘拐される可能性も上がるし、長時間の外出は更に危険性が上がるというからだそうだ。
「さあ!ふたりとも、いきましょう!」
まずは屋台!
食べ物、玩具、食器、雑貨品…。
「すごおい!たくさんあるー!」
(うわ、あれ、りんご飴⁈ここにあるの⁈)
つやつやとした飴が魅力的だ。
(しかも向こうには風車⁈)
「ル、ルーク様。そんなに走り回ると危険です。ステラさんと私から離れないでください。」
「ひえ〜、ルーク様、お待ちください!」
「あ。ごめんなさい…。」
(ついついと…。この世界での歳を含めても二十歳以上になるのに…。)
「…気をつけてくださいね。…ところでルーク様、何か食べたいものはありますか。少しばかりなら、許可されています。」
「ほんと⁈…うーん。じゃあね、あれがたべたい!」
俺が指差したのは、球が三つ、串刺しにされたモノ。イメージでいうと、三色団子だ。
ただ、決定的に違うところがあった。
ガラスのようなのだ。
三色という所は同じだが、団子にあたる部分がガラスのように透き通っていた。
夕陽、銀杏、海底の三色で、光があたる度きらきらと輝く。
砂糖のようなモノで覆われておるため、余計輝いて見える。
「ラムプシですか?」
「ら?…うん、そう。」
「美味しいですよね〜!ラムプシ!私大好きで、小さい頃せがんで買ってもらってたなぁ。おすすめです!」
ステラおすすめだそうだ。
先生は「そうでしょうか」とかなんとか呟いていたから、好みが分かれるのかもしれない。
「おじさん、これ一つくださいな。」
「あいよ、どうぞ。百三十円だ。」
気さくそうなおじさんが、ラムプシとやらを渡してくれた。
ニコニコとしていて、好印象である。
「いいねえ、親子三人でお出かけかい?」
「ふぇっ⁈わわ私は、ただのごえ––むぐっ」
先生がステラの口を塞ぐ。
「いいえ!おれたち、きょうだいでおでかけしてるんです!」
(勘違いもいいところだぜ…。まあ、確かに、ステラは村娘の服、先生もラフな服装だけど。)
「そうなのかい?それはすまないなぁ、おチビさん。兄と姉と末の弟でお出掛けかぁ。楽しみなよ!」
「うん!」
「いただきまーす!」
大きく口を開け、ラムプシを食べる。
(⁉︎)
衝撃がはしった。
外側はしゃりっとしているのに、中身はまるでグミのようだ。
そして噛む度味が溢れる。
それぞれりんご、オレンジ、ラムネの味がして、とても美味しい。
「んむ…。う、うまい…‼︎」
「そうですよね!ルーク様!」
「…ルーク様が楽しんでるのならば、いいですが…。」
(見たところ子供が屋台の辺りに集まっているし、人気だというのも頷ける。)
「………。あー、おいしかった!ありがとう、せんせい、ステラ。」
俺はもう上機嫌なのだよ‼︎
「…ええと、次は、どちらへ…?」
「んー、そうだなぁ。」
俺はちらりと二人の方を見る。
(二人とも大人だし、子供っぽいところは気が引けるだろうなぁ。んー、二人の好きそうなところ…。そして近場…。)
「ほんやに、いきたいです!」
「…えっ?でも、ルーク様、文字は…。」
「そうですよ!いくら優秀と言われるルーク様でも、六歳では読める範囲に限りがありますよ?アッ、不敬…。申し訳ありません!!」
「んふふ、だいじょうぶ!おれ、べんきょうしてたから!」
(この世界での文字が日本語なら、漢字もあるだろうしね。うんうん、俺すごい。)
「はやくいこ?ふたりとも!」
「…わかりました。ステラさん、行きましょう。…何処にしろ、ルーク様が行きたいというところは、きっと楽しめるところです。」
「うう…。私、本は苦手ですが、ついて行きますよぉ〜!」
––––その頃、路地裏。
ルーク達三人をじっと見つめる影があった。
マントを纏い、人目を避けている。
「あのガキ…。もしや…。」
にたぁ、と、笑い、その影は路地の奥へと消えるのだった。
無邪気に笑うルーク達に、黒い影が迫っていた。
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