第11話 お出掛けの許可

『僕なんかに、気をつかわなくていいですよ。』


(『僕なんかに』って、なんだよ。)

たくさん先生の事を知れたのに、それなのに

「あ〜もう!わかんない!」

そう叫んでたとき、俺の部屋の扉が鳴った。

「失礼します、ルーク様!ご主人様がお呼びです。執務室に、と!」

満面の笑みで入ってきたソフィア。

ケイシー先生が来る日、ポジティブ思考でぽやぽやしていた新人メイドである。

「ぽやぽ…いや、ソフィア!とうさまが?」

「はい!」

…なんだろう、怖いなぁ。

「うーん、わかったよ。」


そうして現在執務室。

見えるのはお菓子のオンパレード。

そして俺の頭を撫でまくる公爵。

「…とうさま。」

「なんだ。」

「…あの。」

わしゃしゃしゃしゃ。

………

「…ボサボサになるのですが。」

はっ!

今の公爵の心を表すのに、これ程ピッタリな表現はないだろう。

「すまない。最近仕事ばかりだったから、疲れが…。」

(…いつもは鋭い眼光も、心なしか虚ろに見えるなぁ。)

「おしごと、ですか?」

「あぁ。最近領内も安定してきてな。経済的にも領民にしても…。だが…。」

「…ケイ様は突き詰めると止まらない方なので。寝不足なのですよ。」

すすす〜っと現れて、セスが言った。

「あ、セス!ひさしぶりい!」

「はい、ルーク様。」

きらきら〜とした笑顔を浮かべている。普通の女性ならば、一発で夢中になるだろう。

でも……。

(う、うさんくせ〜。)

さすが『知略の公爵家』といったところか。

従者もなかなかに手強い。

「せ、セスはげんきしてた?」

「はい!元気でおりました。」

………

う、うーん。

「…えと、とうさま。そうだんがありまして。」

「なんだ。」

「ケイシーせんせいと、おでかけしたいんです。」

おそるおそる言葉を口にする。

「駄目だ。」

(だ☆よ☆ね☆)

俺は思わず涙目になる。

「どうしてもいきたいんです!」

「駄目だ。」

(知☆っ☆て☆た☆)

………

沈黙がながれる。

「まぁまぁ!ケイ様!騎士をつければいいじゃないですか。ねー、ルーク様。」

(セス!俺は今初めてお前が優しい奴と認識できた!)

「それにおもしろそうだし。」

(セス!前言撤回するよ!)

大きなため息をつき、公爵は頭を抱えた。

「はぁ。…そんなに簡単ではないのだ。公爵家の息子であるルークが、外に出たらどうなると思う。ならず者に身分が知られれば、誘拐される事も有り得るのだぞ。」

「「あ。」」

何も言えねぇ。

こうなったら…!

「とうさまぁ。…どうしてもぉ?」

上目遣いと涙目攻撃!

猛烈に恥ずかしい!

「ブフォッ。」

(おいセスてめぇ、笑うんじゃねぇ。)

「んっ!…いや、だが…。」

「とうさまぁ…。」

「…騎士をつけ、一時間だけという事が条件だ。」

(ありがたき…!)

「とうさま、ありがとう!」

そうして俺は、二日後にケイシー先生と街へ出かける事となった。



〜裏話〜

外出の許可を得て、部屋へ戻るとき。

公爵が気を遣って、部屋へ送れとセスをつけてくれた。

「…ルーク様。」

「…なに。」

「さっきの上目遣い攻撃、意図的にですよね?」

………

「え〜?なんのことぉ〜?」

「…んふ。いえ、私、十五になる弟がいるのですがね。六歳頃は泣いてねだることしかできていなかったんですよ。」

にこにこと言うセス。

「…ほかに、できるこいるかもよ?」

「…意図的に、という事は認めるのですね。」

(あっ、しまった!)

「六歳の子供というのは、余程厳しい環境で育たない限り、騙すということはしにくいものなのです。」

「…どうだろね。」

今日は月がでていないな。

「たしかにこれは私の見解です。でも、ルーク様には、何か不思議なモノを感じるのです。」

「かみさましんじてるタイプ?」

「私が信じるのは公爵様だけです。」

部屋の扉が見えてきた。

「お答え頂けないようですね。…それでは、おやすみなさいませ、ルーク様。良い夢を。」

扉を開けて、中に入る。

「おやすみ、セス。」

………

「ねぇ、セス。」

「はい、ルーク様。」

にやりと笑い、俺は言ってやった。

「かみさまはいるよ。シニガミはかくていでね。」

ぱたん。

扉が閉まった。

「まじかよ…。」

セスは窓の外を見つめる。

「…まさか…。『知略の公爵』の息子様が、あんな笑みをするとは…。」

(敵にまわさないようにしよう。)

心に誓うセスであった。

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