第9話 かえてあげたい

「…今日は、この国の成り立ちについてお教えします。それと、この前の宿題を出してください…。」

「わかりました。…はい、おねがいします。」

宿題を受け取るケイシー。


「…はい、たしかに。ええと、ルーク様はこの国の成り立ちを知っていますか。」

「はい、ブレイブおうとカイこうしゃくが、りんごくのてきをたおして、くにをつくっていったのですよね。」

昔読んでもらった絵本を思い出す。


「…そうです。ブレイブ王は後の公爵と協力し、王座を手にしました。カイ公爵は知略、戦略、策略に長けていた為、この戦いを有利にする事ができたのだと言われています。そして王ブレイブは、生まれながらの民を思う心と、何より圧倒的な剣術の才が彼を導いたと伝えられています。」

ケイシーは黒板に要点をまとめて書く。


「…その為、現在、公爵家は『知略の公爵家』と言われています。それにはカイ公爵の活躍もあるのですが、公爵家に生まれてくる子供は、例外なく優秀で、戦略や策略をたてるのが上手いということに由来しております。」


ちらりと俺の方を見たかと思ったが、そう思った時にはもうケイシーは黒板に目線を移していた為、気のせいと思うことにした。

「…補足ですが、侯爵家は『約束の侯爵家』。伯爵家は『人脈の伯爵家』と呼ばれています。…侯爵様は現在、ラピチナ国の宰相を務めており、伯爵様は商売を専門としています。」

「そうなんですね!わ、おもしろいなぁ。」

「…ルーク様。」

「はい?」

「今日はここまでです。」

「……はい?」



はあ〜〜。

大きくため息をつく。

授業が終わり、ケイシーは帰った後。

俺はハンナとおしゃべりしていた。


「ねえ、ハンナ。あのね、ケイシーせんせいがすぐにかえっちゃうの。」

「?帰る…とは、どういうことですか?」

訊き返すハンナに事の詳細を話す。

「じゅぎょうがね、へんにみじかいの。さんじゅっぷんくらいしかおしえてくれないの。…あとはしゅくだいだけ。」

あらあらとハンナは呟くと、少し考える素振りをした。

「…でも、そうですねぇ。家庭教師様…ケイシー先生は、自分の容姿を気になさっているのですよ。」

「じぶんの?なぜ?」

「ケイシー先生は、あのように髪も目の色も色素が薄いでしょう?それが世間ではよく思わない方もいらっしゃるようで…。長く人の前にいる事が苦手なのだと、聞いたことがあります」

「…どうして。」

「これは他の方の前では言ってはいけませんよ。……ケイシー先生、生まれながらに親御さまから忌み嫌われていたそうで。それで…いろいろと辛い目にあったと。…これは有名な話なんですけどね。」

薄い瞳と白っぽい髪に生まれた、ケイシー先生。

辛い目って?

(虐待…だろうか。)

虐待されていなかったとしても、聞いた限り親に嫌われていた先生は、今までどう過ごしてきたんだろうか。

苦しくて、辛くて、悲しくて、…死にたくなったこともあるかもしれない。

(…いつの時代も、世界も、親というのは…。)


「…ですから、ルーク様。ケイシー先生は人の目に晒されるのを、否定されるのを恐れているのだと思います。」

哀しいことです、とハンナは俺の頭を撫でる。

「…おれが、ケイシーせんせいのこと、かえてあげたいなぁ。」

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