第6話 父様と呼べ

雲ひとつない空。

輝く太陽。

小鳥のさえずり。


(うーん、絶好の散歩びよりだ。)

昨日、ハンナにはこの国の成り立ちと、騎士と姫の恋物語、竜と勇者などの物語を読んでもらった。どれもおもしろかったけど、俺はハンナに抱えられて外を見る散歩の方が好き。


「ルーク様はお散歩がお好きですね。いいことです。それでは今日は、ガゼボでゆっくりしましょうか。いっとう薔薇が綺麗なんですよ。」

(が、ガゼボ?なんだそれ。)


ハンナが俺を連れて行ったのは、小さな屋根の、東屋のようなところだった。

全体的に水色で統一されており、中には小さなテーブルと、座れるところがあった。

(なんだろう…写真で見たことあるかも。ヨーロピアンだな)


「あっ。」

突然ハンナが小さく叫んだ。

「?」

見ると座席には、公爵がいた。

長い黒髪をまとめ、本を読んでいる。

「…おはよう御座います、ご主人様。」


ハンナが挨拶をする。

すると俺たちに気づいたのか、あぁ、と答えた。しかしまた本に視線を戻す。

(うわ、なんだよ。感じ悪いなぁ。)


「えぇと、お邪魔になってはいけないので、失礼します。」

行きましょう、ルーク様。と、ハンナが身体の向きを変えると、呼びかけがあった。

「まて、ハンナ。俺はルークと話をしてみたい。こちらへ来い。」

「は、はい。」

(ええええ!や、やだよハンナァ。)

ハンナは公爵のそばに俺を座らせると、その横に立つのだった。

「うああ、あんなぁ。ああぁん!」

(こうなったら泣き真似でもなんでもしてやるう!)

「泣くな、ルーク。私はお前の父だ。」

(いや、あんたのその態度が恐いんだよう。)

「…。幼子とはわからぬ。」

「ご主人様、ルーク様を撫でて差し上げてください。きっと落ち着きます。」

…。

無言でなでてくる。

恐い。

「そういえばハンナ、この歳ごろの子どもは、言葉を喋るのだよな。先程もお前の名を呼んで泣き叫んでいたし。」

「はい。ルーク様、なにかお喋りできますか?」

(ええー、いやだよー。でも、ハンナ…。)

…。

「…にゃんにゃん。…わんわん。…えおん。…おちゅきさま。」

…。

ひとつ、弁明をさせて欲しい。

これはあくまでも、一歳くらいの子が喋る言葉を想定したものであり、ウケを狙っているとかではない。そこんとこ忘れずにね‼︎


「…喋るといってもこれくらいか。では俺を父様と呼んでみろ。」

(喋らせといてその反応⁈しかも今度は父と呼べと!恐い、この人!)

「…としゃま。」

「もう一度。」

「……としゃま。」

「ふむ。」

………。

「よいな」

満足げですね、公爵様!!!

その言葉にハンナが答える。

「そうでございましょう!私も、はじめて名を呼んでいただいた時は、もう喜びで溢れてしまいました!」

「ああ。それではこれからは、ルークは俺のことを父様と呼べ。」

そういうなり公爵は立ち上がり、ガゼボを出て行った。

「うう。」

「さ、ルーク様。今度はハンナと遊びましょう。」










執務室にて。

「閣下!御用とは、なんでしょう。」

オレンジ色の髪が揺れる。

「…セス。俺とお前はそんな堅苦しい間柄ではないだろう。どうしたんだ、今更。」

するとセスというそば付き…従者はため息をつき、言った。

「…そうでございました、ケイ様。…だってこの前の戦争、大手柄ですよ?またケイ様から俺は置いていかれたんだなぁ、とね。」

「…ついてくれば良かろう。」

(いや、ついていけないほど貴方は強いんです。)

「…それで、御用とは?」

公爵が目を細めた。

「…買い物をしたくてな。」


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