第5話 英雄の剣

「ルーク様、今日は絵本をお読みしますよ」


公爵、ケイ・スケヴニングがおよそ一年振りの帰還をしてから二日。俺は暇だった。


何故かって?

それまでハンナ以外にも構ってくれていた執事やメイド達が、より一層仕事に専念するようになったからである。

(まあ?主人が帰ったんだし?当然だと思うけど。でもなんか、嫉妬する〜。)

「ええと、あ、これなんてどうでしょうか?」

物思いに耽っていると、ハンナが本を見せてきた。

(『ブレイブ王と英雄』…日本語表記…。)

もう驚かないと決めた。









「むかしむかし、ブレイブ王子という者がおりました。」


ブレイブ王子は勇敢で、国民思いの優しい王子でした。

王子が青年になるころ、戦争がおきました。

隣国が攻めてきたのです。

王様は捕らえられ、宰相も捕まりました。

ですがお妃様が、王子だけでもと、逃がしてくれました。


しかし、ずっと王宮で過ごしてきた王子にとって、外の世界は初めての体験です。

追手から逃げるうち、森で道に迷ってしまいました。

「困ったなあ、どうしよう。」

するとそこへ、黒髪の青年がやってきて、王子に尋ねました。

「こんにちは。こんなところでどうしたんですか。」

「はい、わたしはこの国の王子だったのですが、隣国に攻められ、わたし以外捕まってしまったのです。そのわたしも、今、森に迷ってしまい…。」

すると黒髪の青年は答えます。

「ならばわたしの家に来るといいでしょう。王子様には狭くて汚れた家でしょうが、このまま森の獣に襲われるよりはいいです。さあ、はやく。」

その青年はカイといって、森の奥に住んでいるそうなのです。

「申し訳ありません。しかしわたしはもう王子ではないので、ブレイブと呼んでください。」


時が経ち、王国は王子を忘れ始めていました。

ブレイブとカイは一緒に過ごすうち、親友となっていきました。

しかしブレイブが毎日思うのは、王宮のみんなと国の民のこと。

「どうすれば…。」

ある日、カイが言いました。

「ブレイブ、ならばわたしと国を取り戻しませんか。あなたなら、王となれる。」

カイの言葉に勇気づけられ、ブレイブは王となることを決心します。


しっかりと準備を進め、いよいよブレイブ達は国を取り戻すための行動に移ります。

「さあ、行こう。」


作戦は大成功。

長い間国を占拠していた隣国の者を退治し、ブレイブは王の玉座を手に入れました。

「カイ、君の剣術と知略が無ければわたしは此処にいれませんでした。ほんとうにありがとう。」

「いいえ、あなたの勇気と決断、民を思う心が導いてくれたのです。貴方の隣で戦いたいという願いが叶い、わたしは幸せです。」

「カイ、君にこの剣をさずけます。私達を守るのに、進ませてくれるのに一役買ってくれた剣です。君を、英雄として讃えたいのです。」

「ありがたく、頂戴いたします。それともうひとつ、頼みがあります。この剣の名を取り、カイ・スケヴニングと名乗りたいのです。」

「ああ、勿論です!スケヴニング、これからが本番ですよ。共に良い国をつくりましょう!」

「…!王の御心のままに!」


これが、ラピチナ国の誕生と、スケヴニング公爵家の誕生に繋がるのです。





「…おしまい。どうでしたか、ルーク様。この国の誕生秘話ですよ。スケヴニングは、英雄の剣の名なのです。」

(へー、そうなんだ。国の成り立ち…まぁまぁかな。ふむ、次はなんの本だろ。)

「うー、ういは、おえ!!(次はこれ!)」

「はい、次は童話ですね!」








そのころ、公爵の執務室。

公爵は窓の外を見つめ、つぶやくのだった。

「フリージア、どうして…。」

最愛の人の、名前を。

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