第4話 家族

俺に父親はいなかった。


はるか昔、母親ではない誰かにキーホルダーを貰ったことだけ、おぼえている。

イルカのキーホルダーで、薄く赤に色づいていて、きらきらと輝いていた。

今思えば、あれは父だったのだろう。

とてもとても大切にしていたのに、「こんなもの。」と母親に捨てられた。

唯一の、宝物だった。





「うあーー。」

「あっ、ルーク様!今日はみんな忙しいので、大人しくしていましょうね。」

(外に行きたいアピールをしたら、断られた…。)

今日は雲ひとつない快晴。

みんな忙しそうだ。


(…なんでっ?遊びたい盛りなんだがぁ⁈)

「今日は、ルーク様のお父様に会えますよ。…やっと、戻ってきて下さいました。」

そんな俺の心も知らず、ハンナは呟く。


(父親ァ?へえ、どんな人なんだろ。というか、母親にも会ってないぞ。)

ハンナ曰く、俺の父親は知略に長けており、公爵がいると勝利同然になるため、領土拡大の戦争に二年間だされていたらしい。国王はこれを最後にすると説得し、出陣させたとか。

(国王ぶっとんでるなぁ。)

母親についてはハンナは話してくれなかった。けど、正直前世から母親にいい思い出はないので、別によかった。


太陽が頭の真上にのぼるころ、ハンナや使用人たちの緊張がもろに伝わるようになった。

(なんだ?例の公爵が、帰ってきたのか?)

するとハンナが俺を抱え、玄関へ連れて行く。

「うー、あんな?」

どかどかどか。

大きな足音が聞こえ、バンと大きな屋敷の扉が開いた。入ってきたのは二人の男と、後ろからついている騎士十数名。


堂々として、長い黒髪を金の装飾品でまとめている碧眼の男と、そば付きの者と思われるオレンジの髪に桃色の瞳をした男。態度からして黒髪の方が公爵だろう。一番豪華な装いだしね。


「うぁー?」

興味が湧いたので、黒髪の男へ向け声を発した瞬間、男が睨みつけてきた。

鋭い、切長の碧い瞳。美形だ。

(ルークのこの顔だちは、父親譲りなのか。でも、瞳は…)

「…その子供が、俺の息子か。」

靴音を立てて近寄ってくる。

「…ふ。うさぎのようにマヌケなツラだな」

(はぁぁああ?う、うさぎ⁈)


「おい、お前。メイドのハンナ。コイツの名前はルークだったか?」

「はい、ご主人様。この方は、ルーク・スケヴニング様であり、ケイ・スケヴニング様の実の息子にあらせられます。来月で二歳となります。」

(え、苗字初めて知った。しかも来月が誕生日?)

「そうか。俺は少し休む。みな、通常業務にもどれ」

(は、?そ、それだけ……?)



ショックだった。

期待していたんだと気づいた。


父親という存在に、俺は今、期待していた。それを裏切られた気分だった。

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