第3話 マギという名の世界

中世ヨーロッパ風の異世界に転生し早二日、ルークはある事に悩んでいた。

それは、この世界の情報が殆どないという事だ。

それもそのはず。つい先日前世を思い出したばかりだし、思い出す前も赤子の様だったのだから。


「うあぁあ...(困ったな、どうしようか。)」

ルークが初めに気づいた事は、音だけだが、それなりに喋れるということ。


ルークはハンナのことを呼べた。身近にいる者なのだろうから、まぁいいとする。しかし、ツバキのことも「うあき」と呼べた。中身が高校生だとしても、ここまで喋れるのか?


(おそらくこのルークは一歳前後。でも礼を言えるほど舌がまわるか?中が俺だとしても、不自然だよなぁ。でもこの世界の一歳は、結構喋れる?ううん、わからん。)

コンコン、と、部屋の扉が鳴った。入ってきたのはハンナが居た。

「ルーク様、おはようございます。今日も空はにこにこですよ。」

(にこにこ…晴れのことか。可愛いな)

「うー、あんな。」

「はい、ハンナですよ。朝ごはんのあとは、一緒にお散歩しましょう。」

(朝ごはん!…離乳食だけど…。)




「ルーク様!薔薇が美しく咲いていますよ。綺麗ですねぇ。」

「う!」

(しかし、碧い薔薇とは…。初めて見た。)


ハンナが散歩にと連れてきた庭には、碧い薔薇と白い薔薇が咲き誇っていた。

「ルーク様!ハンナ!散歩ですか⁈」

楽しい気分だったが、その声が聞こえた瞬間、ルークは凍りつき、ハンナは顔をしかめた。

「…ツバキ。なんで貴方が此処に。」

ルークが要注意人物認定していたツバキだ。


「え、あー、…医務室の窓からルーク様を抱えたハンナが見えたので…一緒に…散歩しようかなぁ、と…えへへ…。」

(おいおい、最後の方自信なさげだぞ。)

「…おおかた、ルーク様に会いたかったのか、サボりたかっただけでしょう。ほんとうに貴方という人は!!」


その言葉にツバキの顔色が変わる。

「は?ルーク様のことはそうだけど、俺はお前にっ––––、あっ!」

しまったと口をおさえるツバキ。

「私に?なんですか。」

「いや、あの、ハンナに…。」

訝しげにツバキを見るハンナ。だか、ルークは勘づいていた。ツバキはおそらく––––、

(ハンナのこと、気になってるんだな。)

「えと、仕事が残ってるから!!これで!!!」

顔を林檎の様に赤くし、ツバキは逃げていった。本当に騒がしいやつだ。

「なんだったんでしょう。変な方ですね。行きましょう、ルーク様。」

(ははは…。)

それにしても、と思うルーク。


(それにしても、広くないか?俺の部屋といい、この碧薔薇の庭園といい…。ここ、屋敷だし。)

屋敷というのは医務室に行く時点、そしてさっき庭にでて振り返った時に気づいた事だ。奇声をあげそうになる程、大きな屋敷だった。

(これは…貴族にでも転生したのだろうか?顔もよくて貴族みたいな生活…。)

死神もそんなに同情する程の人生だったのだろうかと、悲しくなった。



















(あれ、ここは…。)

まるで雲の上に居るかのような景色に、ルークは見惚れる。

(俺、なんでこんなところに。)

するとあの銀髪の死神が、変わらず少年の姿で近づいてくる。

(死神…。)

「やぁ、きらり…いや、ルーク。元気にしてる?」

(あぁ?……はは、まあそれなりに、な。それよりいくつか聞きたいことがある。それと、ここはもしかして夢のなかか?)

不思議だ。声を出さずとも会話ができる。


「そうだよ。あと、説明不足だったかな。君が転生したのは魔法の存在する世界…マギとしよう。マギなんだ。マギは、君たちの世界でいう…ラノベ?にでてくるような剣と魔法の世界なんだよ。」

(死神が…ラノベを知っているだと⁈)

今日イチの衝撃が体を貫いた。ラノベはいいぞ。


「で、君はその世界のある一つの国、ラピチナ王国の公爵家のひとり息子に転生したんだ。ラッキーだね。君は元高校生だし、大抵の言葉は他の赤子より喋れるようにしてる。違和感が感じられないくらいにね。それと、君には僕から加護をつけといたよ。」


(し、死神の?)

「うん?…あ、死神は不吉なんだっけ!あははは!まぁ、他の人より身体能力・知力・運勢の向上があると思うけど、君のいう、死神からだから、マイナスのもあると思うよ〜。あはははっ!」

(加護があるだけ嬉しいけど…。あと、もう一つ、俺の家族構成について知りたい。)


死神はにやにやとして答えた。

「それは近いうち知れるよ。あぁっ!もう朝だよ、ルーク!じゃあ、バイバーイ!…赤ちゃんは、早起きなんだろう?」

(あ、おい待て、おいっ––––。)











「うあいういっえ?(近いうちって?)」


チチチ…。

外では小鳥が歌い、朝のおとずれを告げていた。

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