第0話 孤独の意志

          〜過去からの誓い〜


 忘れもしない12月25日。


 小学生の時から好きだった幼馴染に振り絞る思いで告白をした日。


 俺の思いははかなく、最悪の形で散っていった。





 「今まで勘違いをさせてしまったならごめんなさい。さようならくん」





 彼女からくる冷めた視線に乗せるような重い言葉の弾丸。




 俺はなかった。

 



 これまで幾度となく共に過ごしてきた時間は彼女には虫けらだったこと。俺だけが君のことを思い、俺だけが君のことを友だと思っていたこと。彼女から見て俺は視界にすら入っていなかったんだ。


 




 



 幼馴染の綾間あやま 華純かすみは人気者だった。


 誰もが認め、憧れるスタイルに綺麗な顔立ち。成績優秀、スポーツ万能。常に冷静沈着かつ、冷淡でいる彼女はクラスでも一目置かれる存在だった。毎日のように告白をされるがあっさりと断り、数多くの男子を泣かせてきた。挙げ句の果てには彼女が告白されている光景が当たり前の様になっていた。



 そんな咲き誇っている綾間華純あやまかすみという存在がクリスマスに顔を合わせたのは幼馴染である俺だった。



 選択肢の多い華純かすみは言い返せば誰でも人は選べた。面白くもなければ、男らしいところも何一つない俺とクリスマスを過ごす義理が何処にもないはずなんだ。



 けど、あの日。12月25日。彼女は俺を選んだ。


 紛れもない俺を選択したんだ。











 けど今になって思う。


 彼女にもてあそばれていたんだって。


 俺の気持ちを分かった上で都合のいいように利用していただけなんだって。

 

 一緒に昼食を食べるときも、帰るときも何もかも少しでも男子という名の怪物を魔除けするために俺を駒として置いていたんだって……







 あの日以降、彼女と顔を合わせることはなかった。

 案の定、関係は崩壊した。






 小学生の時から隣にいた華純は “ただの同級生“ へと移り変わり、楽しかった思い出も、喧嘩した時のことも、一緒に泣いたあの頃のことも全て消えてなくなった。










 けど、どうしてなんだろう。











 “ぽっかりと心に穴が開いたような気分だった“










 彼女の本当の気持ちが分かっても、こんなに酷い有様になっても、てのひらの上で踊らされていたと知ってもなお、好きだった。関係を切りたくないって思ってしまった。



 自分でも何故なのか分からない。何故まだ彼女にしがみ付くのか理解が出来ない。頼れる人が離れてしまうからなのか、それとも一人になるのが嫌だと本能が思っているのか。


 

 綾間華純から見て俺はなんの取り柄のないただの同級生で、脈どころか友達とすら思われていない、赤の他人だった。しかし、そうと知ったにも関わらず、未だ忘れられない俺がいる。そんな腐った思考をしている自分に苛立ち、彼女がいないと何もできないと言われているようで嫌気がさした。





 何故こんな思いをしなくてはいけないのか。そんなに俺との時間が無意味で価値のない、彼女に何の感情も与えない時だったのか。





 ならなんで……どうして俺を選んだ。


 どうして君は俺の隣にいたんだ。


 どんな気持ちで俺のそばに居座ったんだ。


 どうして俺にこんな感情を抱かせたんだ。

 




 永遠と駆け廻る華純に対する疑問。

 解けない問題が増えていくばかりで解決できない。

 考えても考えても打開策が何一つない。











 あぁ……もういいや。










 どうにでもなってしまえよ。


 

 




 もう、何もかも全てなくなってくれ。










 腑抜ふぬけた思考と感情。そして友。

 捨てればこんな馬鹿げたことで悩まずに済むんだ。



 俺も綾間華純の様に無の感情で振る舞えばいいんだ。




 


 だから決めた。もう友達なんていらない。作らない。


 誰とも関わらない。誰も信用しない。



 だってもう二度とみじめな自分を。


 涙を流す弱い自分を見たくないから。

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