プロポーズ

 肉料理を食べて、最後のデザートまで本当においしかった。

「この後、どうしますか?」

「プランあるんじゃなかったんですか?」

「まあ、あったんですけど…あっ、ちょっと、海でも見に行きませんか」

「あ、はい」

 少しかしこまった小山にドキッとしてしまった。

「では、向かいましょうか」

「はい」

 席を立ちあがって、先に小山が歩いていく。そのあと果歩が後を追うようについて行った。小山は支払いをせずに、そのまま店を出て行った。果歩は戸惑ったが、小山に付いていくしかなかった。ただ、店の出入口付近にレジのようなものは置かれていなかったので、すぐに小山に支払いについてい聞くことはできなかった。3階から地下一階にある駐車場まで、エレベーターで降りることになった。上がってくる間、周りに数人いたが誰も会話をしていなかった。それに小山もエレベーターの方を向いた。気になるが、聞くタイミングを失った気がした。エレベーター内も静まり返っていたので、しゃべり出すタイミングを完全に失ってしまった。


車の助手席に座って、果歩は小山の方を見た。

「昼食の支払いってどうするんですか?」

「えっ?」

 小山がそのままエンジンをかけて車は発車させた。

「食事の料金のことですか?それなら支払いなら済んでますよ。事前に、美術館の入場券と一緒に支払いました。スマホ決済ですね。入るときにICカードのようにかざすと入れるシステムです」

「それで入れたんですね。あっ、すみません。あとでお金支払います。」

「いいですよ。今日は僕が誘ったんで。」

「いや、それでも…」

「まあ、気にしないでください。」

「ああ、はい」

 お金を払いたいけど、払えそうな雰囲気がなさそうで、小山の言葉に甘えるしかなかった。そういえば、入る時、何名かスタッフの方に聞かれていた気がする。そのままゲートに入って行った。初めてのデートなのに、何も出来ていない感じがして気分が滅入りそうだ。

「どうかしましたか?」

「いいえ…」

「怒ってます?」

「いえ、怒ってません。。。すみません」

「なら、いいですけど。」

果歩の頭に、さっきのフランス料理のお店での会話を思い出した。

「あの、小山さんって、絵画とか興味ないですか?」

「ああ、まあ、そうです。今日も興味あるふりしてたんです。」

「えっ!?」

「デートって、どこ行けばいいのかなと思って、美術館にしてみたんです」

「そうなんですか。」

「なんか、静かな場所の方がいいのかなと思ってしまって」

ああ、なんか色々と考えて計画を立ててくれてたようで、嬉しくなった。

「笑顔も素敵ですね」

小山が言った。果歩は顔から火がでるくらい熱くなった。

「着きました。」

車のフロントガラスから海が見えた。エメラルドグリーンの海が広がって、それだけで幸せだった。

「あの、僕と付き合ってもらえませんか?」

果歩は顔がこわばった。初デートで決めるべきなのだろうか。でも断る気持ちもなかった。

「私でいいですか?」

「いいですよ。前から好きだったんです。」

「前から?」

「はい、登坂かほりをご存じですか?」

「ああ、高校の友達です」

「それ、僕の従妹なんですよね。それで、かほりに頼んでお見合いをセッティングしてもらったんですよ。かほり曰く、かしこまった状態で一度会って、デートに誘ってほしいとのことで。」

「えっ、そんな遠回しな」

「大事な友達だから、安易な紹介はしたくなかったそうです。」

「あ、はい」


そして、1年後に小山果歩になった。


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ただ、楽しくて、いい関係を。 一色 サラ @Saku89make

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