昼食

果歩は、小山の後ろを何もわからず付いて歩いた。でも、お腹が空きすぎて歩くことがしんどくなってきた。

「そろそろ、昼食にしませんか?」

果歩の問いかけに、小山は振り向いて腕時計を確認した。

「ああ、そうですね。この美術館に併設されているレストランがあるので、そちらにいきましょうか。」

「はい」

やっと、何か食べられそうだ。小山が歩き出す。さっきよりペースが速くなり、お腹の空いている果歩は離れないように必死についていくしかなかった。

 小山が2,3m先で止まった。果歩が追いつくと、小山は少し固まった表情をして軽く会釈された。

「入りましょうか」

小山に促されて、店内に入った。お昼だということで少し混んでいる様子だった。入り口にフランスの国旗があったので、フランス料理が食べられそうだ。小山は店員に話しかけた。

「あの、予約の小山です」

「はい、ご予約の小山様2名様ですね」

果歩は驚いた。

「では、こちらへどうぞ」

目が合った小山と目線が逸れた。店員に窓際の4人掛けのテーブルに案内された。美術館の最上階である3階の窓から一面に広がる海が見えた。あまりのも綺麗で圧倒されてしまう。

「綺麗ですね。連れて来ていただいて、ありがとうございます。」

「いえ、楽しんでいただけらば幸いです」と照れ笑いをするように言われて、すこし果歩も安心した。小山といたこの数時間がどこかぎこちない距離を感じていた。果歩がメニュー表を見ようとした。

「あっ、もう注文もしているので」

小山の方に顔を向ける。

「そうなんですか!!」

 果歩は全部をまかせっきりでいいのかと思ってしまったが、何もできなかった。運ばれて来たのが、野菜のテリーヌだ。前菜だ。野菜の甘みとほんのりした香りが口に広がっていく。次にスープが運ばれてきた。コンソメスープだ。玉ねぎのほんのり甘えが口に広がる。次に運ばれてきたのが、タラのムニエルだった。魚料理だ。完全にコース料理だ。嬉しいけど、あと何品運ばれてくるのだろう。一般的に知っているのが7品コースだ。ちらちらと視線を感じる。小山の視線だ。

「私の顔に何かついてますか?」

「いえ、すみません。美味しいですか?」

「はい、おいしいですよ。コース料理ですか?」

「そうです。7品のコースメニューにしました。」

「へぇー。じゃあ、次は『ソルベ』でしたっけ? たしか『お口直し』って意味ですよね。」

「はい、そうです。リンゴのシャーベットと聞いています。」

「ああ、リンゴですか。シャーベットといえば、柑橘系だと思ってました。楽しみです。」

 お昼からコースメニューを食べられるとは思っていなかった。ここまでしてもらって本当にいいのだろうか。

「何か気になりますか」

小山が少し不安げに聞いて来た。

「いええ。あー、なんかすごくありがたくて。色々とプランを立ってくれたみたいで」

「喜んでいただけて良かったです。果歩さんは美術館はよく来られますか?」

「いえ、あまり美術品には詳しくなくて、親に連れて来てもらった以来かもしれません。」

「そうなんですか。すみません。」

小山は俯いてしまった。申し訳ないくなった。

「いえ、謝らないでください。私が悪いんです。今日を色々とプランを考えていただいてありがとうございます。」

「まあ、僕も美術館に苦手だったんで、少しホッとしました。」

 果歩はそれを聞いて、唖然としてしまった。そんな時に、リンゴのジェラートが運ばれて来た。

「果歩さん、そんな顔しないで食べてください。」

「はい、いただきます。」

  スプーンですく上げて、口に運ぶ。リンゴの甘さが口全体に広がっていく。やっぱりおいしい。なぜか小山は笑っている。

「何かおかしいですか?」

「すみません。本当に美味しそうに召し上がるので」

「えっ、あっ。すみません」

小山は笑顔だ。なんか果歩は自分が痛い人間に思えてきた。


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