ただ、楽しくて、いい関係を。
一色 サラ
出会い
本田果歩は、美術館の静けさに戸惑いながら一歩ずつ歩いていく。広い館内を見渡す。何を見てもピンとこない絵に無造作に置かれている。何か意図はあるのだろうが、果歩にとって関心のない展示だ。前を歩く小山茂樹に興味なそうな顔を見られたくなくて少しずれて歩く。
「凄い絵ですね」
会話がないことに、怖さを感じて言ってしまった。
「そうだね」
「小山さんって、よく美術館に来られるんですか?」
「はい、まあ…」
「そうなんですね。」
小山が少し立ち止まって、絵を眺めている。ただ湖に蓮の葉が描かれているだけの絵だった。これの何がいいのか全く果歩には分からなかった。
親があまりにも恋愛に疎い果歩のことを気にして、父の取引先の息子である小山と、1カ月前にお見合いという形でお互いの両親と6人で食事会をした。小山の印象は清潔感でもの静かなイメージで、不快さはなかった。身長も160cmの果歩より頭一つぐらい大きかった。果歩は今年28歳で、小山は32歳と聞いている。普段はサラリーマンとして働いていると聞いているが、どんな職種で、どんな会社かはよく分からなかった。IT系と言っていたが、難しそうで果歩にはピンとこなかった。果歩は、スーパーで正社員として働いていた。なので、一般企業で社内で働くという経験がなかった。常に動いていたい果歩からすると、常に座って仕事する人の気持ちは理解できなかった。
2週間前、小山から「どこかに、一緒に出かけませんか」というデートの誘いがLINEがきた。果歩は断ろうと思った。つまらない女だと思われてしまうのではないのかと、誘いを断るつもりだった。母から、一度くらい行ってみたらと後押しされて、今日は2人っきりで出かけることになった。
午前10時に待ち合わせをしていた。小山は車で向かいに行くと言われて、実家ぐらいだったで、その近くにある公園に迎えに来てくれた。お見合いの時が、スーツだったが、長袖のトップスにモノトーンなボトムスでカジュアルな服装だった。今日は9月の終わりごろで夏と秋の狭間のような気温だったので、果歩は深緑ワンピースに白のカーディガンにしていた。
小山に「お待たせしました。乗ってください」と言われて、助手席に座った。果歩は行き場所など、何もつげられなかった。小山の運転する車が山を登って、美術館にやって来た。
今日のデートプランは小山が決めてくれている。果歩は何をすることものなく、小山に付いていくしかなかった。スマホをみると、12:10と表示されていた。お昼になった。絵より、だんだんお腹が空いてくる。何を見ても、興味などない。小山からお昼をどうするかと言われることを果歩は待つしかなかった。前に進むたび、お腹が鳴りそうで怖かった。少し早歩きの小山の後を追う。
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