第3話 よい
「うぅー…ちょっと酔ってきたかも」
「はぁぁ?!」
日本はやはり山が多い。もうずっと、うねりくねった山道を走っている。高い木々に囲まれた坂道は、上がったり下がったりしている。その上、右に曲がったり、左に折れたりしているものだから、僕はだんだん気持ち悪くなってきてしまった。
「…おい!おいおい!…まじかよ!?
もう!俺の背中に吐いたら、山の中に
そのとき、薄暗い視界がガバッと晴れた。進む先には、光る海。港町が広がっていた。ふんわりと潮の香りが鼻をくすぐる。
「はぁ…もう…。今日はこの辺で休憩しよか」
僕はうなずく代わりに、ハルの身体をギュッと締めた。
カチカチカチと指示器の音がして、すぅーっとバイクの速度が落ちる。森の中から住宅街へと空気の香りが変わるのを感じた。
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「ウッマァー♡
海の側だとこんなに美味しいんだぁー!!!」
京都にも回転寿司はあるけれど、ここのお寿司はもっと
「…さっきまで、酔うてグロッキーになってた癖に。
呆れるように言って、お茶をすするハル。彼のお皿にはわさび茄子が載っている。せっかく海の近くのお店なのに…。
「ええやろ、別に。好きやねん」
鮮やかな青の載ったそれをパクッと頬張る。回転寿司で、なぜかハルはいつもこれを食べるのだ。
…でも、お寿司で野菜を食べる意味が分からん。"京都市内のお寿司やさんは海から遠いから、新鮮じゃない!"みたいなグルメな理由かと思っていたけど、海の側でも食べるのか。
「…うっさいな。ちょっぴり辛いのと…色が好きなんや。綺麗やろ」
少し頬を赤らめて、素っ気なく言う。眉毛を整え、髭を剃ったハルの横顔はさっぱりしていた。
「それに、最近は輸送が発達してるから、内陸の寿司屋もちゃんと新鮮やで」
「そうなん!?」
「当たり前やろ!
ちょっと海から離れただけで鮮度が落ちるって、何十年前の話してんねん」
何十年…うぅ。言われてみれば、確かにその通りで…恥ずかしい。照れ隠しにジョッキをぐっと呷った。嫌なことはアルコールで忘れるに限る。
「あっ!!!アキ!お前、いつの間にビール頼んだん!?
くそっ、運転で飲めへん俺の前で、これ見よがしに生ビールなんて、飲みやがって!!!
帰り道は運転してやらんからな!」
…何だかんだと言ってるうちに、店内のお客さんが増えてきていた。…そろそろ夕食の時間だからかな。
窓の外ももう薄暗い。西の空が黄色く染まっている。藍色の空はいつもより綺麗に見えた。
よぉーし、今夜は寝かさないぞぉ!
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