第2話 二穴

「アキから誘っておいて、俺のバイクに二穴にけつってどういうことやねん」

 風切り音の隙間から、ハルの大きな愚痴が聴こえた。

「えー!いいじゃん!ハルの方が運転上手いんやし」

 骨張ったハルの背中にしがみつきながら、僕も声を張り上げて返す。


 突き抜けるような青空の下。畑に囲まれた一本道をバイクで走る。

 風は少し冷たいけれど、優しい陽射しが暖かい。ツーリング日和ないい天気。

 青い空に雲の白がよく映えていた。地平線は見えないけれど、広い空が心地いい。


「で、どこ行くんやっけ?」

「別府温泉!」

「はぁ?九州やんけ。高速高速道路に乗った方がよかったやろ…」

 カーブで車体を傾けながら、呆れるようにハルはぼやく。ヘルメットから飛び出た彼のポニテが僕の首をくすぐった。


「だって、下道で行けば、途中の街でも美味しいもの食べれるじゃん!」

「突然、家に押しかけて来たかと思えば…。

 いろいろと注文の多いお姫様やな」


 ……お姫様はハルの方やろ。

 僕は言葉を飲み込んだ。

 高い塔に閉じ込められた、長い髪のお姫様。彼がどうして引きこもっていたのか、僕は知らない。…多分、ずっと知ることはない。そんな気がする。

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