夢を見るならハル以外

おくとりょう

第1話 出発

 ボコボコボコと音がした。深い水の中に沈むみたいに。


「俺のことなんか、ほっとけよ!!!」


 頬に強い衝撃を受けたかと思うと、僕の身体は軽く地面から浮いていた。

 次の瞬間、どんっという大きな音が響いて、視界が反転した。痛いというよりも頭の中がぐわんぐわんする。これが漫画だったなら、きっと僕の頭の上には星が回っているのだろう。


「……っ!!…ごめん」


 目をパチパチさせていると、チカチカする視界の中で、ハルがおそるおそるこちらを覗き込んでいた。

 伸びっぱなしの長髪。日焼けしてない白い顔には無精髭がよく目立つ。おまけに、眉毛は左右が繋がりかかっている…。

 でも、その垂れ気味の両眉毛が、いつもより五度くらい下がっているのを見て、僕は「あぁ、やっぱりハルなんだ…」とホッとした。

 そして、なんだか涙が出てしまいそうだった。…何でだろ?


 ぼんやり彼を見つめていると、少し諦めたような顔をして、そっぽを向いた。

「いいよ、一緒に行ってやるよ」


 何か考えていたことをスルッと忘れて、僕はニッコリ微笑んだ。

「ありがとう!」


 僕はハルと温泉旅行へ行く。


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