第7話 語り手

「私は、この島にいる友達を助けるためにここにいるの。」


「この島に…」


口をはさんでしましそうになるが、すぐにアイカに制される。

私が口を閉じるのを見て、ユリカモメはまた話し始めた。


「この島は表向きには離島施設として正式に開発されている、ってことになっていると思う。私はその開発のための調査がスタートするときに、第一陣として友達や研究員さん、スタッフさんと一緒にこの島に来たの。私たちの役割はこの島で生活した場合のアニマルガールへの影響を見るための検体、そしてこの島にもともといるアニマルガールとの接触がメインだった。」


アイカにも聞いたことがあるが、離島での調査を行う場合、内容にもよるが数人のアニマルガールを一緒に連れていくことはよくあるらしい。目的は今ユリカモメが言ったようにアニマルガールへの影響調査や島にいるアニマルガールとの接触が主だ。


「初めは説明されていた通りの仕事をしていたの。まあ、私たちは普通に生活して、1日1回この研究所に今日は何をしたかを話しに来るだけだったから、仕事って感じはしなかったんだけどね。」



ふと横に視線を移すと、アイカは頷きながら聞いていた。おかしなことはないらしい。私には離島での研究経験がないから、アイカの存在はとても助かる。


「そして、しばらくしてからスタッフさんから、この島が正式に離島施設として開発されるって聞かされた。同時に、もう毎日の報告は必要ないってこと、新しく研究員とスタッフがくるってことも教えてもらった。その時はとっても嬉しかった。こっちにいたアニマルガールとも友達になれたし。…でも、そこまでだった。」


ユリカモメの顔が下を向く。それでも、話を続ける。


「開発が始まって、島の一部は私たちも入れないようになった。今の港も、この研究施設もその時に整備されたんだ。だから私はしばらくこの辺から離れて過ごしてた。中には居住区…2人と会った、あの森の奥あたりでスタッフさんたちと一緒に生活してた友達もいた。たまに空から眺めてたけど、すごいスピードで開発が進んでいたよ。」


急速に開発が進んだ、というのは記録にも残っている。あの森の奥の廃墟も、当初はスタッフの居住区だったみたいだ。でも、そんなに開発速くが進んでいたのに、どうして研究施設と港だけしか整備されていないのだろうか?


「研究施設が完成したころから、だんだんスタッフさんの数が減り始めた。当然、一緒に暮らしてた友達は気づいて私も呼び出されたの。それで居住区に行ったときにあの男…我孫子シンヤに会った。彼は私たちを研究施設の地下に移動させた。『大型のセルリアンが現れて、すでにスタッフが何人か襲われている』って嘘までついて。」


「どうしてそんな噓を?」


私を制止していたアイカだったが、ついに彼女から口をはさんだ。

なぜそんな嘘をついたのか、私も知りたい。ユリカモメは深くうなずいて話を続ける。


「そこが彼の目的だったの。ここの地下、奥深くには知らないアニマルガールが何人かいた。そこで彼はアニマルガールたちに戦い方を教えていた。格闘、射撃、戦術、車の運転や移動方法に至るまで様々のことを私たちも教わった。全部『大型セルリアンと戦う方法』として。あの時は全然疑ってなかったんだ。」


「彼は何のためにそんなことをあなたたちに?」


「私たちを人間と戦わせるためだよ。」


「!?」


「人間と?」


「うん…回りくどくてごめんなさい。ちょっと心の準備ができなくて。でももう大丈夫だから、はっきり言うね。彼…あいつはアニマルガールを兵士に育て上げて、戦地に送り込んでいたの。」


「戦地って、あなたたちを戦争の道具にしていたってこと?」


困惑と怒りが混ざりあって気持ち悪くなる。心なしか、左肩も痛む。


「その通り。道具もいいところだったよ。…私たちは、死んでもサンドスターで生まれ変わるから。戦地で骨を拾って、またここに送り返される。そしてまたアニマルガールになって、戦地に行く。人間より身体能力が高かったり空を飛べたりする、ほぼ無限の兵器。“けもの”としての尊厳なんて、もうないよ。」


「…」


もう、言葉も出ない。まだユリカモメの証言だけで裏付けがあるわけじゃない。それでも、ここまでのユリカモメの言動が、もし本当だったら、という気持ちを加速させていく。


「そう…。ということは、あなたの友達はまだこの島にいるのね?」


アイカは静かに尋ねる。言葉は冷静だが、唇をかんでいた。


「うん。私は戦場に行って、この扱いを知って、まだ来てない友達を助けるためにここまで逃げ戻ってきたの。空が飛べることは遊んでた時と戦いの道具としてしか使ってなかったけど、海を越えれたことには感謝しないといけないね。」


彼女のいうことが本当なら、まだこの島にはアニマルガールがいる。そして今もこの地下で兵器にされようとしている。なぜ彼女たちのような罪のない動物が、ヒトの勝手に巻き込まれなきゃいけないのか。


私はいてもたってもいられず、痛む左肩を押さえながら立ち上がる。


「ユリカモメちゃん、この地下にその施設があるのよね?」


「そうだけど?」


「行きましょう。すぐに。」


もう日が暮れてしばらく経つ。我孫子シンヤも、今日は早くから起きていたことも含めて、そんなに遅くまでは起きていないはずだ。その間に逃がせるならそれがいい。


「ダメだよ。確かにもう夜遅いけど、仮にも兵士としての訓練を受けてる。それに、我孫子シンヤがいなくても補佐役がいて、彼女は戦うのも説得するのも簡単じゃない。」


「だとしても、放ってはおけないわ。」


「だから、行くなら準備しなきゃ。それに、研究所からは警備も厚いからね。」


ユリカモメも席を立ち、ポケットから黒いバンダナを取り出すと、頭の羽を隠す様に巻いた。


「ついてきて。急がば回れ、だよ。」


「でも…。」


「リセ、気持ちはわかるけど一旦落ち着きましょう?彼女の言う通りよ。でも、その前にレンに書き置きでも残しましょう。ユリカモメも、いいわね?」


「もちろんいいよ。」


アイカにもなだめられ、ユリカモメについていくことになった。




そうして、宿泊施設を出たところでユリカモメが振り返り、私達は向かい合った。


「それと、改めて。ユリカモメだけど、これからはユリって呼んで。よろしくね。」


「ええ、よろしく。リセでいいわ。」


「私も、アイカでいいから。よろしくね。」


固い握手を交わし、研究施設を後にした。

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