第6話 決め手
「早く答えろ!」
鬼気迫る表情のユリカモメが怒鳴る。
「ユリカモメ、落ち着いて。あなたの言っている意味が私たちにはよく分からないの。」
「…」
「彼の…、我孫子シンヤの味方ってどういうことなの?」
「説明してもらってもいいかしら?」
私とアイカは、なるべく刺激しないように尋ねる。意識しなくても、拳銃を向けられていれば自然とそうなる。もちろん、私は右手を、アイカは両手を上げている。
「そんなこと言って、本当は知っているんじゃないのか?」
どうやら、疑いはかなり深いらしい。この疑い方をされるともう一度信用を勝ち取るのは難しい。
「…信じるかどうかはあなたに任せるけど、私たちはあの男とは関係ないわ。」
返答に困っていると、アイカが口を開いた。
「申し訳ないけれど、証明できるものは何もないわ。それでも、信じてほしいとしか言えない。」
「…」
ユリカモメは拳銃を握る手に力を入れなおす。やはり、そう簡単に信用してはもらえない。
「…珍しい果物なんてもの、この島には存在しない。全部私でも知ってるものばかりだ。…お前らの本当の目的は何だ?」
「初めから疑っていたのね…。」
ここはもう、正直に話すしかないだろう。私はアイカの方を見る。アイカもこちらを見てうなずく。
「…私たちは、この島で起きている問題を調査しに来たの。嘘をついていて、ごめんなさい。」
「問題って?」
「それは…、正直に言うとわからない。調べてほしいって通報があって調べに来たけど、こんなに広い島で会えたのはあなたとシンヤだけ。情報が何もないの。」
「…」
ユリカモメはこちらから視線を離さないまま、下唇をかむ。少しの間をあけて、またゆっくりと口を開いた。
「それなら、あなたたちが調べていたことを見せて。昨日来たばかりでも、多少は何かあるでしょう?」
研究所の方に顔を振るようにして促してくる。心なしか、ユリカモメの言葉からは敵意はなくなってきているように感じる。どちらかといえば疑問に近いものになっている。
「分かったわ。ついてきて頂戴。」
より研究所の入り口に近いアイカを先頭に研究所に入る。その間も、ユリカモメは後ろから拳銃を構えていた。
研究所に入ると、ユリカモメは私たちを目の届くところに座らせて椅子に手首を縛り、「そこから動かないで」と言うとデスクの上の資料やPCを物色していく。PCの扱いにずいぶん慣れている?誰かに教わったのか?資料を見る姿もだいぶ様になっているように見える。
少しして、あらかた資料に目を通したユリカモメが戻ってくる。すると何も言わずに手首の紐をほどいていく。
「信用してくれるの?」
確かに入出港記録や搬入物品は調べていたけれど、信用されるような情報があったんだろうか?
「資料の方は正直何も分からなかった。ちょっと調べればすぐ出てくるようなものばかり。」
「それじゃあなぜ?」
「これだよ。」
そう言ってユリカモメは新聞を投げてくる。
「それ、その『英雄』ってのは、あなたのことでしょう?左手を失った研究員のリセって。」
これは…
英雄だなんだと取り上げられている記事だった。なぜこれがここに?アイカの方を見ると目を逸らされた。笑いをこらえているようにも見える。
「アイカ…。」
この記事、持ち歩いているの?何のために…。
ともあれ、何とか信用してもらえたようだ。
「信じてくれて、ありがとう。」
「こちらこそ、ごめんなさい。」
ユリカモメは深々と頭を下げる。言葉も柔らかさを取り戻してきている。
頭を上げるように言うと、アイカが質問を投げかけた。
「ところで、PCの使い方は誰に教わったの?」
「それは…」
「それに、我孫子シンヤをひどく嫌っているようだったけど?」
「…」
アイカが詰めると、ユリカモメは下を向いて黙ってしまう。
「私たちを信用してくれたことには感謝するわ。だから、今度は私たちがあなたを信用できる情報をちょうだい。」
「…」
「アイカ、あまり畳みかけても…」
「大丈夫。私だって銃で脅したんだから。それに、目的が近いみたいだから、手伝ってもらえた方がうれしいから。」
「あなたの目的?」
「そう。…目的も、アイカさんの質問も、長くなるけど、話したら協力してもらえる?」
私たちが頷くと、ユリカモメはしっかりと私たちを見て、ゆっくりと話し始める。
「…私は、この島にいる友達を助けるためにここにいるの。」
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