第5話 繋ぎ手

ユリカモメ


日本には主に秋から冬前にかけて渡来する。

雑食性で、魚や甲殻類が主な食料である。

夏と冬で頭部の色が異なるのも特徴である。冬は白く、夏には黒くなる。


「ユリ…あなたは、みんなは元気ですか?」


少女は手帳に挟んだ写真を見てつぶやく。

古くなって端はボロボロになっており、色も褪せてきているが、その写真を見れば当時の記憶が鮮明に思い出される。


「私は、まだ…」


少しの間思い出に浸っていると、ドアが開く音がする。


「戻ったぞ。」


慌てて手帳をしまい、ドアの方に向き直る。


「先生、お帰りなさい。」


「ただいま。突然だが、今日は頼みたいことがある。引き受けてくれるか?」


「ええ。私にできることなら。」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「あなた、ユリカモメよね?」


「おぉ、覚えててくれたんだね。」


アイカの問いに笑顔で答える。


「昨日言ってた果物探し?」


「そう。森の中を探し回っていたところよ。」


「その感じだと見つかってないみたいだね。…私の方も珍しいものは見かけてないかな。」


身振り手振り付きで伝えてくれる。とてもかわいらしい。


「そう、それじゃあ、引き続きお願いね。」


「はーい!」


手を振って別れようとしたが、アイカは目線をユリカモメから離さない。

顔を見つめたままゆっくりと近づいていく。ユリカモメは圧に負けて目線をそらし、後ずさる。


「えっと…どうしたの?…ちょっと恥ずかしい、んだけど」


「あなた…」


目の前まで近寄ると、ユリカモメの顔に手を伸ばし、頬に触れた。


そして、そのまま払うように擦る。


「ぅえっ、ちょっと!なに!?」


「泥だらけじゃない。きれいにしないとだめよ?」


「そ、そう?昨日も水浴びしたんだけどなー…。ちょっとドキドキしたよ。」


私も少しドキドキした。何が気になったのかと思ったけど、何事もなくてよかった。


「あなた、一人?よかったら研究所のお風呂、貸すわよ。」


いや、なんだろうか。どうもやはりナンパとかそういう手合いに見えてしまう。

前の島にいた時もこんな感じだったんだろうか?帰ったらイワン…タイワンザルやエゾシカに聞いてみよう。


「え、いいの?」


「いいわよね?リセ」


「まあ、一人くらいなら大丈夫でしょうね。こっちもあと一人いるだけだしね。」


今日1日、一人増えるくらいなら何ともないだろう。それにこの島にいたアニマルガールから話を聞くチャンスにもなる。


「そう?じゃあ、行きたいな!」


「ええ、いらっしゃい。」


「でもその前に、もう少し探索するから付き合ってね。」


「はーい!」


ユリカモメは元気に答えてくれた。




それから日が暮れる少し前まで探索していたが、特に成果もなく引き返すことになった。


研究所の前まで戻ってくると、シンヤが研究所の前にいた。


「あぁ、お帰りですか。調査は順調ですか?」


「こんばんは。おかげさまで何とか。そちらはどうかされました?」


「いえ、今朝の荷物の納品書類を整理しに来たんです。…そういえば、レンさんの姿が見えないようですが、お二人だったんですか?」


二人?さりげなく後ろを見るとユリカモメの姿はなかった。


「どうしました?」


「いえ、寒気がしたもので。レンには別で作業をしてもらっています。」


「なるほど、どおりで。おっと、風邪をひくといけませんから、ゆっくり休んでください。」


「はい、そうさせてもらいますね。」


それでは、と言ってシンヤは車で施設の外へ去っていった。

書類整理で来ていたのなら、研究所の中に入っただろう。それでもレンが一緒だと思っていたということは中にはいないのだろうか。

シンヤの姿も見えなくなり、研究所に戻ろうとしたところで後ろから制止される。


「待って。止まって。」


声の主はユリカモメだった。先ほどはいなかったが、いつの間にか戻ってきている。


「はっきりさせたいことがある。質問に答えて。」


ユリカモメは私たちそれぞれに拳銃を向ける。


「!?」


「あなた、それは…」


「質問にだけ答えなさい。あなたたちはさっきの男の仲間?」


「どういう…」


「答えろ!!」


ユリカモメの表情には、先ほどまでの柔らかさは微塵も残されていなかった。


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