第2話 導き手

「いらっしゃ~い」


船から降りると、1人のアニマルガールに迎えられた。見たところ鳥類のようだ。


「お?初めて見る顔だねぇ〜。」


「こんにちは。初めて見る顔って、ヒトの知り合いがいるの?」


「あ~、いや、知り合いっていうか一方的に知ってるというか…。てか、そんなことはいいの。私はユリカモメ。君達は?何しにここへ?」


警戒されているのだろうか。しかし顔に疑いの色はなく、好奇心に近いものだ。


「遅れてごめんなさい。私はアイカ。彼女はリセで、彼がレン。私達は…この島に珍しい果物があると聞いて調べに来たの。」


「珍しい果物?聞いたことないなぁ。」


本来の目的を伝えるよりは、と思ったが、逆に怪しまれただろうか。

しかし、やはり彼女はそのような素振りを一切見せなかった。


「じゃあさ、それ見つけたら私にも教えてほしいな!私も探すの手伝うから!」


「食べられるかも分からないのよ?」


「それでも、見てみたいかなって。」


「分かったわ。よろしくね。」


「えへへ、ありがとう。じゃあね!」


ブンブンと手を振っていたユリカモメの姿は、すぐに倉庫の影へと消えていった。


「すごく人懐っこい子でしたね。」


「船の往来が多いって話だから、人と話す機会も多いのかもね。」


「初めて見る顔、なんてことも言ってたものね。」


暖かな出会いに表情が緩んでいたが、ふと我に返る。


「あー、しまった。研究所の場所聞くんだった。」


「確かにそうね…まぁ、これだけ栄えているんだから歩いていれば誰かしらいるでしょ。」


「それなら…あ、あっちの方民家っぽい建物が見えますよ。」


レンが指差した、倉庫街のさらに奥。木造の建物が見えた。


「ここに人が住んでるってことは考えにくいけど…まぁ、行ってみましょう。」


――――――――――――――――――――――


「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」


ドアを2、3叩いて呼びかけるも返事がない。


「ここもいませんね。」


「うーん、期待してなかったとはいえ、ねえ。」


3人揃ってため息をつき肩を落とす。

そこに一人の男が近付いてくる。


「何かお探しですか?」


「え?ああ、すみません、気付かずに…。」


「いえいえ、いいんですよ。」


「あなたは?」


「私はこの島の調査と研究を行っております、我孫子シンヤと申します。まぁ、今となってはこの島の殆どを任されてしまっていますが…。」


「人員不足はどこも一緒ですね…。申し遅れました。私達は本島で研究員をしています。私が高田リセ、彼女が村上アイカ、彼は藤田レンです。」


「おお、本島の方が、どうしてこの島に?人員補強、って訳じゃなさそうですが。」


「残念ながら…。私たちはとある植物の調査のために伺いました。それで…。」


「ほう、植物が。それで、どうされましたか?」


「この島にも研究用の施設があると思うのですが、案内していただけませんか?」


「おっと、確かにそうだ!これはこれは気が回らず申し訳ない。」


「…。」


どことなく、反応が嘘くさいような気がした。気づかれているか?

とはいえ、案内をしてもらえるのであればそれに越したことはない。


「それでは、ついてきていただけますかな?」


「ここから近いんですか?」


「いえ、少し離れていますので、車を出しますよ。」


――――――――――――――――――――――――――――――――


島の内側に向かって車を走らせること十数分。その間、舗装されていない道はほとんどなく、本島を思わせるような風景が続いていた。


「ずいぶんと綺麗に作られていますね。本島みたいだ。」


「ええ、まあ、なんでも、環境がいいみたいで離島エリアとして開発しているようなので。」


「離島エリア…。」


リセたちは誰もそのような話を聞いたことがない。もし本当なら、船の往来が多いことにも納得がいくが…。


「さて、もう着きますよ。」


「ここが、研究施設ですか!?」


そこはとても広大で、工場か何かだと言われても納得してしまうような…施設という言葉では足りない気さえする場所だった。もともと離島に配属されたアイカであれば驚くのも無理はないだろう。


「ああ、すべてが研究施設というわけではありませんよ。右手側の、あの白い建物が研究所です。他は教育施設や娯楽施設など様々です。」


「なるほど…ということは、離島エリアとしてはここを中心にしているのですね。」


「そういうことです。…それじゃあ、私は車を置いてきますので。」


「いえ、案内ありがとうございます。ここまで来れれば大丈夫ですので、お気遣いなく。」


「そうですか。…そうだ、隣の棟が宿泊施設になっていますので、もしお休みの際はそちらをお使いください。」


「それはどうも、ありがとうございます。」


そしてシンヤは「ごゆっくり」と言い残して去っていった。リセたちはそれを見送り、車の影が見えなくなったところでお互いの顔を見合わせた。


「彼、大分怪しいわね。」


「ええ。この施設、いや島ごと洗ってみる必要がありそうね。」


「気づかれてないといいですが…。」


「『男が弱気でどうするの?』」


「そんな理不尽な…。」


――――――――――――――――――――――――――――――


港。数人のアニマルガールが、静かに海を眺めていた。


「遅れてすまない。」


「いえ。めずらしいですね。」


「いやあ、ちょっと想定外の客人がね。」


「客人、ですか?」


「ああ、『英雄』さんが、な。」


「英雄、ですか。一度お会いしたいですね。」


「…いや叶わんだろうな。それより、今日の授業は場所をA訓練室に変更する。」


「…了解しました。」


シンヤの言葉を聞くと、全員が荷物をまとめて移動を開始した。

…一人を除いて。


「どうした?早く移動してくれ。」


「はい。しかし…。」


彼女は一度落とした視線をもう一度シンヤに向けた。


「何か、隠していませんか?」


「…何も、隠してなどいないさ。隠し事はしないといっただろう?」


「…了解。」


彼女もようやく、荷物をまとめて移動を始めた。






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