第239話 女騎士たちを一方的にボコりまくるという例のアレ(ユズリハ視点)
サクラギ邸の離れに建つ訓練場。
その一角で、なんだか凄く見覚えのある光景が繰り広げられていた。
それを端的に表現するなら──完膚無きまでの蹂躙。
または蹂躙オブ蹂躙。
つまり、要するにいつものヤツだ。
スズハの兄が圧倒的実力差を見せつけつつ、女騎士たちを一方的にボコりまくるという例のアレである。
「しかし……よりにもよって、最強の二人を相手にするとはな……」
なにしろ、スズハの兄とうにゅ子である。
この国で、いや世界中で見ても、間違いなく最強ランキングの頂点を占めるに違いない二人である。
警備隊の女騎士など、どれだけ束になってかかっても相手にならない。
なにしろユズリハにスズハ、ツバキの三人がかりですら、手も足も出ないのだから。
「相変わらず、スズハくんの兄上は訓練か何かと勘違いしているようだし……」
「隊長さんがテストといってましたからね。兄さんをテストするつもりが、逆に兄さんにテストされているという感じでしょうか……?」
目の前では、スズハの兄の軽い裏拳を喰らった女騎士が空高く吹っ飛んでいた。
もしあれが本気なら、鎧ごと肉体が破壊されて、汚い花火が上がっているに違いない。
けれど絶妙すぎる手加減のおかげで、派手に飛ばされてもダメージはほぼ無しだ。
そしてそれほどの手加減は、ただの一撃で倒すよりもよほど大きな実力差がなければ、そもそも成立しようがない。
戦闘の専門家である女騎士たちは、そのことを完全に理解していた。
開始数分で涙目になった
「……そう言えばユズリハさん、なんで申請に名前を書かなかったんですか?」
「それはしごく簡単な理由だ」
「というと?」
「では逆に聞くがスズハくんは、うにゅ子のフルネームを知っているか?」
「そう言われれば……うにゅ山うにゅ子、とかでしょうか?」
「んなわけあるか。……そんなわけでな、スズハくんの兄上とうにゅ子のことをどこまで説明しようか悩んだんだ」
「まあ、旧王都にハイエルフが来たとなれば史上初でしょうしね」
「貴族や軍の連中のことだ、今すぐパレードするなんて言いだしかねん。面倒だろう? だから伏せておくことにした」
「なるほどです……でもべつに、兄さんはいいじゃないですか」
「それこそ凱旋パレードを開くとか絶対言われるぞ。もっと面倒だろう?」
ユズリハの見立てではスズハの兄の名前を出したが最後、パレードだのパーティーだの言われまくるのは確定的だった。
なにしろそれほどまでに、スズハの兄の名前は大陸中に轟いているのだから。
しかも一つや二つなんてチャチな数じゃない。
貴族間で噂が噂を呼び、一ヶ月連続パーティーで済めばまだマシだろう。
ユズリハとしては、そんな事態は絶対に、なんとしても阻止しなければいけなかった。
なぜならば。
そんなことになれば、スズハの兄と過ごす時間が減るではないか──!
「というわけで、どうしようかいろいろ考えているうちに面倒になってきて、最終的には不詳ということに落ち着いたわけだ。もちろんサクラギ家の政治力で、もし反発されてもゴリ押せると見込んでのことだが」
「このままだと政治力の前に、兄さんが暴力でどうにかしそうな感じですね……」
少し遠くから眺めながら、そんな会話を二人でしていると。
不意に、視界の先で動きがあった。
スズハの兄と女騎士たちが何やら話し込んだかと思ったら、スズハの兄が布で目隠しを始めたのだ。
「──なあスズハくん、あれはなんだと思う?」
「想像するに、また兄さんがヘンなことを言ったのではないでしょうか? ……例えば、『地下墓地は真っ暗だから、目隠しをした方が実力をキチンと判断して貰えるはずです』とかなんとか」
「なるほど。スズハくんの兄上なら言いかねない」
「兄さんの場合、親切心で言ってるからタチ悪いんですよね……」
「相棒以外のだれが言っても、ただの煽りにしか聞こえないからな」
まあ自分の実力を理解してないのは相棒の欠点だが、とユズリハが独りごちる。
とはいえそれは些細な問題だろう。
致命的でもない限り、少しは欠点もあった方が人間味があるというものだ──
そしてスズハの兄の後ろでは、うにゅ子も目隠しを付けるのが見えた。
「ほう。うにゅ子も参戦するか」
「兄さんの後の順番を待っていたようですが、我慢できなくなったみたいですね」
「しかしスズハくんの兄上の背中を護るのは、相棒であるわたしの役目じゃないのか? ちょっとわたしも参戦を──」
「ユズリハさんステイ」
そして二人の予想通り、今まで以上に女騎士たちがボコボコにされた結果。
女騎士の隊長は涙目になりつつ、スズハの兄とうにゅ子の探索許可を出したのだった。
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