第238話 名前も職業も全部が不詳
翌日、サクラギ邸に見知らぬ女騎士たちがやって来た。
どうやらユズリハさんが女騎士のツテで手配したらしい。
「幽霊騒動について聞きたくて来てもらったんだ。彼女たちは現在、実際に王城の跡地を警備している女騎士たちだよ」
「そういうことですか」
来てくれたのは警備隊の隊長と、隊員が数名。
ぼくとユズリハさん、それにスズハとメイドのカナデで、女騎士たちのお話を伺った。
ちなみにツバキは、用事があると言って朝から出掛けている。
「……王城の一角には、大規模な
「……だからわたしたち、最初はアンデッドのモンスターだって思って……」
「……でもそのうち、幽霊を見たって子が何人も出てきて……! この子も!」
「は、はいっ! それが、魔力付与した剣を何度突き刺しても、全部すり抜けて……!」
彼女たちの話を聞くと、大まかにはこうだ。
王城の地下には大規模な
予想通りアンデッドはいたが、そのうちアンデッド対策に魔力付与された剣の攻撃をもすり抜ける目撃例が複数出てきた。
そして、それってアンデッドじゃなくて幽霊じゃね? という話になったと。
「ふーむ……」
これがイタズラなら、もう少しはっきりとした特徴がある気もするけれど。
これはどうしたものかと腕を組んでいると、女騎士の隊長さんが手を上げて。
「──ユズリハ殿、一ついいでしょうか」
「なんだろうか?」
「ユズリハ殿は今回の件で、我らの騎士隊に成り代わって王城跡を捜索していただけると伺っております」
──まずは自分たちで捜索しよう、というのはユズリハさんと話していたことだ。
ぼくたちは探偵ではないので、まずは現場を見なければ分かりようもないし。
それにユズリハさんが「相棒と一緒に夜の現場を探索して、ときには背中を預けながら隠された秘密を解き明かす……凄くいいな……!」などと滅茶苦茶乗り気だったからだ。
トーコさんに推理小説でも借りたのだろうかってくらいに。
その申請も、ユズリハさんは一緒にしてくれたらしい。
「ああ。実地調査こそ基本だからな」
「申請いただきましたのは全部で六名。その中で
そこまで言うと。
隊長が胡乱げな目で、ぼくやカナデを見回して。
「あとの三人はなんですかっ! そもそも王城跡なんて超重要区画の捜索隊に、どうしてメイドが加わってるんですっ!? そんなもの普通に考えたら絶対不許可ですよ不許可! 地下墓地でお茶会でも開くつもりですか!?」
当然すぎる正論パンチだった。
ユズリハさんもちょっと身じろぎしながら、
「まあそれはそうだな……ではカナデは不参加で」
「……なんですと……!?」
ガガーン、とショックを受けるカナデをよそに、隊長さんの追及は続く。
「他の二人はもっと酷いです! なんですか名前も職業も全部が不詳って! 備考欄に『万が一素性が漏れると大騒ぎになるので秘密』とか書けばイイわけじゃないですよ! というわけでそこの貴方!」
ずびしっ、とぼくを指さして聞いた。
「兵士にはとても見えませんが、ご職業は?」
「えーっと、ただの庶民?」
「うが──────っっ!!」
哀れ隊長さんは、頭を抱えて蹲ってしまった。
えっと、これってぼくは悪く……ないよね?
内心ちょっぴりドキドキしていると、スズハがぼくにだけ聞こえる小声で囁いた。
「……そこは、自分は辺境伯だと名乗っていいのでは?」
「それがねえ。辺境伯がホイホイ領外に出てるってバレると国防上問題があるらしくて、あんまりポンポン名乗らないようトーコさんに言われてるんだよね」
「それが大量の兄さんのニセモノを生む一因だという気もしますが」
「それはともかく、この隊長さん面白い人だね」
「なんでもユズリハさんが、堅苦しいのはイヤだからって関係者で一番権力者への態度がぞんざいな人間を指名したらしいですよ? とはいえこれでクビになってないのですし、腕の方は確かだと思われますが……」
「この隊長さん、ちょっとだけトーコさんに似てるよね」
女騎士になるのは基本的に貴族出身だし、家系図的にトーコさんの又従兄弟くらいには近いのかも知れない。
そんなことを思いながら、小声でスズハと話していると。
ようやく復活したらしい隊長さんが、こんなことを言い出した。
「というわけで、ユズリハ殿にお願いがあります」
「な、なんだろう……?」
自分が悪い認識のあるらしきユズリハさんが、少しだけ怯えつつ話を聞くと。
「──彼らにも地下墓地のアンデッドと戦える戦闘能力があるか、確かめる必要がある。なのでテストをさせていただきたい」
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