第234話 幽霊は否定派
王城の屋根の上で、スズハから聞いたことを思い出す。
「ん? どうしたキミ」
「ユズリハさん。旧王都の王城跡で、幽霊騒ぎが起きている話は聞いてますか?」
「それなら知ってるぞ。サクラギ家の諜報部が仕入れた情報だからな」
スズハはユズリハさんから聞いたのか。納得。
「ユズリハさん、王都で──今はもう旧王都ですが、そこで幽霊騒ぎが起きてるだなんて由々しき事態です」
「だが所詮はアンデッドだろう? 地元の騎士たちが対処すれば済む話じゃないのか」
「いえいえ。幽霊も出るって話じゃないですか」
「そう言えば、そんな話もあったような気はするが……」
──この世界において、幽霊とアンデッドモンスターには明確に違いがある。
アンデッドとは、つまり不死属性のモンスターだ。
ゾンビとかヴァンパイアとか、まあその類いのヤツ。
なかにはバンシーみたいに、壁をすり抜ける幽体型のヤツもいる。
特徴としては魔力付与されてない武器だとダメージを与えられないとか、首を刎ねても死なないとか、再生能力がある種が多いとか。
なので厄介なことは違いないけど、斃せないという敵でもない。
その一方で。
幽霊はモンスターじゃない。斃せないからだ。
幽霊から攻撃してくる話はあまり聞かないが、魔法で襲われたという話もたまにある。基本的には幽体だけど、でも触れる幽霊がいるという話もある。
要するに、幽霊のことはサッパリ分からないのだ。
世の中では、実体があるのがアンデッドで、実体がないのが幽霊だと言われている。
両者の見分け方は極めて簡単。
魔法の武器で殴ってダメージがあればアンデッド、なければ幽霊ということだ──
ユズリハさんが難しい顔で腕を組みながら、
「……幽霊か。わたしは実は、幽霊は否定派でな」
「へえ。そうなんですね」
「ああ。幽霊なんて非論理的な存在がいてたまるか。だから幽霊を目撃したなんて証言は全部デタラメか、あるいはアンデッドか何かの見間違いか、もしくは気のせいだろう──け、決してわたしが幽霊が怖いから強がってるとかじゃ全然ないからな!?」
「そんなこと思いませんって」
「それにキミ、知ってるか? 幽霊の仕業だとされたものが、実際は人間やモンスターが引き起こした事件というのは、実は相当数あるんだ」
「ありそうな話です」
「わたしとしては、いるかいないかも分からない幽霊より人間やモンスターの方がよほど恐ろしいと思うぞ? 今回の幽霊騒ぎだって、きっと誰かのイタズラとかに違いない……いや、わたしが実は幽霊が怖いとかでは決してなく!」
「旧王都の騎士たちもそんな感じで捜査してるんですかね?」
「うむ。しかし難航しているらしい」
「そういうことなら」
ここぞとばかりにユズリハさんを正面から見据えて、
「サクラギ公爵領へ行く前に──ぼくたちが、その幽霊騒動を解決してみませんか?」
「なっ、ななななな!?」
するとなぜかユズリハさんが頬を紅潮させて。
「そ、それは! キミがわたしとともに冒険をするお誘い──ということだろうか!?」
「……えっと、まあそうなりますかね……?」
「そうか!! つまりわたしを、このユズリハ・サクラギを頼りにしたいというのだな! ともに謎を解き明かすパートナーとして!」
「あ、あの、」
「それに幽霊騒ぎとはいえ、もしも強力なアンデッドモンスターが出てきたらと考えればキミが安心して自分の背中を預けられるパートナーにいて欲しいと考えるのは必定だ! それにわたしは幽霊が怖くないし!」
「えっと、そ、そうかも……?」
「まあわたしも本家の儀式の準備で忙しい身の上だが、唯一心から信頼できる相棒としてキミに頼まれては否応もない。やってやろうじゃないか!」
「えっと、忙しいならぼく一人で行きますけど……?」
なにしろぼくの主目的は、サクラギ公爵領に行く時期を少しでも遅らせることなので、ぶっちゃけユズリハさんが一緒でなくても問題は無いけれど。
「そんなわけにいくか。安心しろ、キミの行くところ常に相棒であるわたしの姿アリだ。いまさら遠慮なんて水くさいぞ!」
──そんなわけで、ユズリハさんがぼく以上に滅茶苦茶乗り気になった結果。
ぼくたちは、旧王都で発生する幽霊騒動の解決に向かうことが大決定したのだった。
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