第227話 やはり女騎士はお尻だと思います

 ドワーフの里を出て奥へ進んだダンジョンは、それまでと明らかに様相が異なった。

 具体的に言うと、暑いのだ。

 ダンジョンを歩いているだけで暑い。

 それも下に行けば行くほど、ますます暑くなってくる。


 すると、どうなるかというと。


「あっついですね、兄さん……」


 そう言いながら、スズハがスカートの裾をパタパタしている。

 普段ならはしたないと窘めるぼくだけれど、正直今はそんな気も起きない。

 それくらい暑いのだ。

 もちろんスズハ以外の面々も同様に、


「このままだと胸の谷間にあせもできちゃうのだ……」

「ツバキくん、谷間にタオルを挟むと少しマシになるぞ?」

「拙はサラシで胸を潰して押さえつけてるから、タオルが入る隙間がないのだ……」

「えっ、それでこんなに大きいのか? いやわたしも人のことは言えないが……」


 考えてみたらここにいる女子って、みんな滅茶苦茶胸が大きいんだよね。

 そう、うにゅ子以外は。

 ぼくは頭上のうにゅ子に手を伸ばし、


「ぼくの仲間はうにゅ子だけだよ……」

「うにゅー!?」


 唯一の仲間だったはずのうにゅ子に、手をぺいっと払われてしまい傷心のぼく。

 ひょっとして、心の中の声がバレてしまったんだろうか。


 ****


 そして夜。

 ダンジョンが暑いことで唯一良いことは、なんといっても温泉。

 このダンジョン、温泉が至る所に見つかるのだ。

 その数たるや、一日で三つや四つ見つかることもあるほどで。


「もう汗だくで参りました……」

「うわっ、胸に挟んだタオルまでびちょびちょだ。谷間汗掻きすぎだろう……」

「うにゅー……」

「……うにゅ子は比較的マシなはずなのだ?」


 女子の温泉はまあ賑やか。

 ぼくは少し離れた場所で、一人で料理しつつ見張りをしてるので、みんなは存分に汗を流していただきたい。

 あとユズリハさんの谷間に一日中あったタオルは、貴族のマニアに高値で売れると思う。絶対売らないと思うけど。


「ユズリハさん、また胸が大きくなったんじゃないんですか?」


 ……女子同士の会話なんて、聞こえないふりをするのが一番である。

 さすがに敵襲に備えて、耳は澄ましてなくちゃいけないけれど。

 だから耳に入るのは仕方ないとして、そのまま聞き流すのが正解なのだ。


「む、分かるか……? 実は五センチほど大きく……」

「そりゃ分かりますよ。だっておっぱいの下の方、明らかに収まってないですし」

「ユズリハ、そのデカさでまだまだ成長期なのだ……?」


 そう。男としての正解は、そのまま聞き流して──


「ていうかトロトロに煮込んだすじ肉くらい柔らかいくせに、弾力が滅茶苦茶あるのだ。やはりマッサージの成果なのだ……?」

「こ、こらっ!? 突然揉むな!」

「女同士だし気にするななのだ」

「女同士でもダメだ! わたしの胸を揉んでいいのは相棒だけだからな!」


 男として、そのまま聞き流し……


「ううむ……拙も大きさと形なら負けない自信はあるけど、やっぱり実際に揉んでみると柔らかさと弾力が一段格上なのだ。やはり拙もマッサージを頼むべきなのだ……?」

「そ、それは困る! わたしが相棒にマッサージしてもらう時間が減ってしまう!」


 聞き流し……


「それ以前にツバキさん、なんでそんなおっぱいソムリエなんですか……?」

「乳房が分かれば筋肉が分かる。筋肉が分かれば全てが分かる。そう教えられたのだ」

「それ肯定していいのか否定すべきか、微妙すぎる見解ですね……」


 ……まあアレだ。

 仲良きことは良いことかな、と昔から言うわけで。

 きっと会話がぼくに聞こえてるなんて、夢にも思ってないのだろう。

 だったらぼくが知らない振りをすれば、全て平和だ。


 こうも暑いと、周囲に気を遣う余裕もなくなってくるしね。

 ぼくも気をつけなければ。

 ──そして、それから先も。


「おっぱいもいいですが、やはり女騎士はお尻だと思います。ユズリハさんは?」

「うーん……やはり太ももではないだろうか? 一見柔らかそうなムチムチのふともも、しかしその下にはしなやかに鍛えられた筋肉が、という二面性がいい」

「まあユズリハは両方むちむちなのだ……拙はお尻はちょっと自信ないのだ……」


 などという会話が続き、そして。


「……うにゅー……」


 会話に全く参加できないうにゅ子の、悲しい声が聞こえてくるのだった。

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