第226話 極度に誇張された、ぼくとは一切関係ない話
盛大なお見送りをされつつドワーフの集落を離れ、ダンジョンを先に進む。
ちなみにぼくがドワーフの里で苦労してた間、みんながどうしていたかというと。
なんとドワーフさんたちと一緒に、毎日美味い酒を呑みまくって宴会していたらしい。
そんなことが許されるのか。
「えっ、お主も長老たちと宴会してたんじゃないのだ?」
そんなことを宣うツバキに恨みがましいジト目を向ける。
「随分お楽しみだったんだね……」
「お主はいったい何をしていたのだ!? ていうか、お主がいなかったせいで拙もけっこう苦労をしたのだ!」
「苦労ってなにさ?」
「毎日のように、スズハを強引にナンパしようとするドワーフに影から忠告したりとか、酔っ払ったユズリハを簀巻きにしたりとか……」
「……そっちも大変だったんだね……」
まあそんなことはどうでもいいわけで。
それよりも重大なのは、ぼくがなぜかエルフの勇者に認定されてしまったこと。
その証として、ドワーフの銘刀を押しつけられたこと。
その代わりとしてダンジョンの最下部に向かい、悪魔が抜け出せないよう地獄の門扉をキッチリと閉めてこなければならなくなったことである。
ぼくがみんなに事の次第を伝えると、その反応は思いがけず淡泊だった。
「だって兄さん、どうせ最下層まで行くつもりだったじゃないですか」
「いやそれはそうなんだけど……」
「だったら同じですよ。ねえユズリハさん?」
「全くもってその通りだな」
……いや、みんなが納得いってるならぼくはいいんだけどね?
「しかしキミの受け取ったドワーフの剣というのは、凄まじい逸品だな」
「そうですねえ」
素人で庶民のぼくだけでなく、女騎士にして公爵令嬢、つまり高い鑑定眼を持っているユズリハさんから見ても、この剣は大したものらしい。
──そう言えばこの剣、地獄の門を閉じるミッションが終わったら誰かにあげたりとか売ったりとかしていいって言ってたな。
「もしもダンジョンの最下層まで進んでも美味しい魔獣がいなかった場合には、この剣をユズリハさんのお祝いにすれば良いですね」
「なんだとう!? い、いやしかしその剣は、キミが贈られたドワーフの宝物だし……! ああっ、でもキミに手づから素敵な逸品を贈られるのというのも、相棒として認められた感じがして捨てがたい……!」
「ユズリハさん……兄さんから宝剣を奪うつもりですか?」
「──はっ。い、いや、わたしは相棒として我慢してみせるとも! ああ!」
……別にぼくは兵士じゃないし、女騎士であるユズリハさんが持ってた方が、よっぽど有効活用できると思うんだけど。
その横で、頭にうにゅ子を乗せたツバキがポンと手を叩いた。
「──なるほど。ようやく理解したのだ」
「どうしたのツバキ?」
「この大陸の連中は、人間もドワーフも物の言い方が大げさなのだ」
「というと?」
「拙は東の大陸で刀匠に弟子入りしていたことがあるのだ。そこで大陸一腕の良い刀匠に、オリハルコンだけで刀は絶対に作れない、良質のミスリルを混ぜないともし作刀をしても使い物にならないと教わったのだ」
「へえ、なんでなの?」
「オリハルコンだけでは刀に必要な硬さと粘り、それに魔力のバランスが取れないのだ。つまり──」
それからのツバキの解説によると。
オリハルコンのみで剣を作ろうなんてナンセンスだし、もしも作ろうとしたって膨大な魔力が必要で人間の出来る域を遙かに超えているとの事だった。
「しかしお主はこの剣がオリハルコンだけで出来ているなどと言ってたし、それ以外にもエルフの英雄とか、ドワーフの救世主とか、この大陸を悪魔の手から救って欲しいとか、いろんな言われ方をしたという話なのだ。それが──」
「それが?」
「この大陸の人間は大げさだと考えれば納得いくのだ。
「なるほど……!」
それは素敵な考えじゃないだろうか。
つまりその説によると、なぜか大陸中に蔓延している謎の
極度に誇張された、ぼくとは一切関係ない話ということになるのだから──!
「さすがツバキ、合理的に考えるとそうなるよね!」
「なぜそんなに食いつきがいいのだ……?」
「細かいことは気にしちゃダメだよ!」
そんな、上機嫌で進むぼくの後ろでスズハたちが、
「……ユズリハさん、あれ絶対二人とも勘違いしてますよね……」
「まあスズハくんの兄上の伝説なんて、誇張と捏造もいいところとしか思えないからな。実際はかなりの部分がほぼ真実というのが、最高にタチが悪いんだが……」
「ツバキさんが勘違いするのは仕方ないとして、兄さんはどういうことでしょう?」
「あれは単に、自分の偉大すぎる功績から目を背けたいだけだろう」
「兄さんらしいと言えば兄さんらしいですね」
「まったく……まあ功績を直視したら、今ごろは国王どころか大陸を統一しててもなんら不思議じゃないからな。アレはアレでいいのかもしらん」
そんなことを言ってるなんて、まるで気づかないのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます