第225話 ドワーフは、エルフとも人間とも子作りできる

 さて。

 その後は当然のように、未完成の剣をぼくの魔力で鍛造することになった。


 正直、最初はエルフの里のの時と同じだと思っていた。

 けれどぼくは、一つの事実を見逃していた。

 そう──ドワーフは完全に鍛冶ガチ勢ということを。


 というわけで。

 ぼくの二度目の作刀体験は、前回とは似て非なるものだった──


 ****


「これは一体どういうことですか、兄さんっ!?」


 ドワーフの里の鍛冶場に、スズハの声がこだまする。


「いやどういうことって、鍛冶だよ?」

「なんでおっぱい丸出しのドワーフが、兄さんの背中に引っ付いてるんですか!」


 ……まあそう言われても仕方ない見た目ではある。

 なにしろ長老ってば、ずっとぼくの背後から全身を押しつけている状態なのだから。

 そしてぼくの背中に残ったものは、若いドワーフのスイカ大の膨らみがむぎゅむぎゅと押しつけられた感触と、その中心にある二つの硬い突起の感触で……


「ふう。やれやれだね」


 長老が一旦ぼくの背中から離れるとスズハに向かって、


「おっぱい丸出しなんてとんでもない。見てよ、肌色のタンクトップしてるでしょ?」

「完全に下着姿なのが問題なんですっ!」

「仕方ないじゃん。鍛冶場って暑いんだから」


 そう、鍛冶場って凄く暑いのだ。火を扱ってるので当然だけど。


「それ以前に、なんで兄さんにぴとっと張り付く必要があるんですか!」

「そりゃ、鍛冶の素人を手取り足取り指導してるんだから当然だし」


 そう。前回のエルフの里では、こう言ったらなんだけど放任主義だった。

 けれどドワーフは鍛冶ガチ勢。

 ぼくの慣れない手つきを見て「ああ違う!」「もっと……こう!」「考えちゃダメだよ、感じるんだよ!」「もっと熱くなれよおぉぉぉ!!」などと熱血指導をされまくった末に。

 最終的には今のような、二人羽織スタイルに落ち着いたのだった。

 ちなみに二人羽織の発祥は東の異大陸で、ツバキによると宴会芸の一種だとか。


「あと言っとくけど、ボクはドワーフの里で一番胸が大きいから」

「その情報って必要ですか!?」

「だからボクが胸元を滅茶苦茶押しつけてるように見えても、それはよりよい鍛冶のため仕方ないことなんだよ」

「ううう……ハレンチですっ……」


 ハンカチを噛みしめそうな勢いで悔しがるスズハ。

 するとその肩をポンと叩く救世主が現れた。


「まあそうムキになるな、スズハくん」

「ユズリハさん……!」

「そりゃあわたしだって、最初にあの姿を見たときには大いに怒りを憶えたものさ。だが女騎士たるもの、もっと広い目で、全体的な視野で物事を捉えなければ」

「というと……?」

「まだ分からないのか?」


 そしてユズリハさんは、目映いばかりの笑顔をスズハに向けて。


「あの二人羽織──わたしたちの訓練にも大いに使えると思わないか?」

「なっ!?」

「わたしもスズハくんと同じだ、今は悔しくて仕方が無いさ。しかしそれだって、所詮はこのドワーフの里にいる間だけの話。翻ってわたしたちには一生涯の時間があるわけだ。ならば二人羽織のアイディア料として、今だけは我慢するのもいいだろう」

「なるほど! わたしが浅はかでした……!」


 よく分からないけどスズハが落ち着いたみたいでよかった。

 ……しかし、二人羽織なんてどうやって訓練に使うのだろーか?

 また一つ、女騎士の謎ができるぼくだった。


「まあでも、今のうちに作業を進め──って長老?」


 スズハとユズリハさんのやり取りを見ていた長老が、ぼくを見てニヤリと笑った。

 激しくイヤな予感がする。

 なにしろその顔ときたら、トーコさんがロクでもないイタズラを思いついたときの表情そっくりだったから。


「な、なんですか……?」

「いやなんでも。一ついいことを教えてあげよう」

「なんでしょう?」


 すると長老は、なぜかぼくをギュッと抱きしめて、スズハたちに挑発的な目線を送って一言。


「──ドワーフは、エルフとも人間とも子作りできるんだよ」


 その言葉の意味をぼくが理解する前に、


「「なんだとうっ!?」」


 なぜか目を三角にして突撃してきたスズハとユズリハさんが大暴れをして、そりゃもう大変な目に遭ったのだった。ぼくが。


 ****


 なぜか身内のスズハやユズリハさんに妨害されるというアクシデントが発生しつつも、一心不乱に刀へ魔力を流しまくること十日ほど。

 ドワーフ族最高の未完成品と呼ばれていた剣が、ついに完成した。


 この剣をほとんど作り終えて無くなった前のドワーフ長老は、現長老の父親でありまた鍛冶の師匠でもあったのだという。

 剣を手にした長老は、さすがに感極まっている様子だった。


「この剣に、師匠は──父様は殺されたようなものなんだよ」

「そうなんだ」

「過ぎた才能は身を滅ぼす、とはよく言ったものだよ。父様がドワーフ族始まって以来の大天才でも、いやだからこそ、父様は余人が絶対に作れない究極の剣を作ろうとした結果自分の全てを差し出した……命までもね」

「……」

「でもきっと、父様は分かってたんだと思う」

「なにを?」

「純粋にオリハルコンだけで出来た剣なんて馬鹿げたシロモノ、どれだけ自分が天才でも絶対に一人じゃ作れないんだって。鍛冶で必要になる繊細な魔力調整と、オリハルコンを精錬するための馬鹿げてるほどに強大な魔力は、どうしたって両立しないから」

「なるほど……」

「父様はきっと、ずっと貴方のようなエルフが現れることを待っていたんだと思うんだ。だから──ありがとう」

「うん……」


 さすがにここで、ぼくはエルフじゃないなんて蒸し返す度胸は無い。

 神妙な顔で頷くと、長老がパッと顔を上げてぼくを見た。

 そしてぼくに剣を差し出すと、とんでもないことを言ったのだ。


「このドワーフの至宝、エルフの勇者に託す」

「えええええええええええっ!?」


 冗談でしょ、と叫ぶ声が喉元まで出かかって止まった。

 それほどに長老の目は大マジだった。


「べつに、役割を終えたら返せとか言わないから。もうその剣はキミのモノなんだから、売りたければ好きに売ってもいいしね。──でもその代わり、一つだけ約束して?」

「は、はひ、」


「ドワーフの運命──ううん、この大陸中みんなの運命、託したから」


 長老の表情はこれ以上なく大真面目で、


「だから、これからダンジョンの最下層まで行ってきて、地獄の門の扉をキッチリ閉めて欲しいんだよ。それこそ、悪魔どもが間違っても出てこないように──!」


 真っ直ぐな目でそう懇願されてしまったぼくは。

 エルフじゃないとか、勇者じゃないとか。

 そもそも美味しい食料を調達しに来ただけなんです、なんて言えるはずもなく。


 ただ何度も、頷くことしかできなかった──





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近況の方ではご報告したのですが、こちらでも改めて。


1.小説の6巻が、9月20日(金)に発売となります!

 内容としてはいつも通りのアレで、

 ユズリハさんのご先祖様が出てきたり、

 兄さんとアヤノさんがお風呂でバッタリ出会ったり、

 ヒロインズのウエディングドレスがお披露目されたりします!


2.コミックの2巻が、9月28日(土)に発売となります!

 内容としては小説1巻の中盤くらいの話で、

 ユズリハさんの求愛ダンスや、えちちなアマゾネスが出てきます!


3.現在発売中の月刊コミックアライブ10月号、

 なんと当作品が表紙となっています!

 スズハとユズリハさんがおっぱい押しつけあってます!


というわけで、ぜひぜひよろしくお願いいたします──!!


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