第224話 宝剣プレゼントイベント
なし崩し的にエルフの勇者に認定されてしまったぼくは、その証として一振りの剣を受け取ることになった。
それはまあ、百歩譲っていいとしよう。
しかし。
「……これが、今のドワーフ族が譲り渡せる最高の剣だよ……」
そう言って剣を差し出す長老は、なんだか顔に影が射している気がして。
しかもその剣、ぼくみたいな素人ですら一目で分かるくらいの最高級品。
実用的な剣でもありまた宝剣でもある、みたいな作りで、例えば柄の部分には超巨大なエメラルドが埋め込まれていたりする。
間違いなく最上位の魔法石だ。
そのほかにも鞘に美麗な細工が施されていながら、刃の部分は研ぎ澄まされていたり。
その刃面に浮かぶ何層もの模様を見ても、それが実用面においても高度な技術と手間暇をかけて作られた逸品だと容易に分かる。
ていうかぶっちゃけ、サクラギ公爵から「友好の証に当家の家宝をやろう」とか言って渡されそうになった剣よりも明らかに高そう。
……たしかあの時は、売り払えば小国が丸ごと買えるほどの価値があるとか言われて、大慌てで謝絶したんだよね……
「長老さん」
「ん、なに?」
ぼくは剣マニアでもなければ、ましてやエルフでも勇者でもない。
つまり、こんな超一流の剣なんて使いこなせないし、そもそも欲しくない。
それに長老の表情からして、この剣をぼくに譲り渡すことに納得いってないようだ。
ならばぼくのやることは一つ。
きっぱり事実を指摘して、この宝剣プレゼントイベントを回避すること──!
「長老さんは、この剣をぼくに渡したくないと思ってますよね」
「っ!? ……そ、そんなことは……!」
「無理しなくてもいいですよ。顔にバッチリ出てますから」
「うぅ……」
「それに正直言って、ぼくもこんな剣を渡されても困りますしね」
まさか売り払うわけにもいかないし。
そんな思いで言葉を紡ぐと、長老はなぜか「くっ……!」と観念したような声を出し。そして。
いったい何を勘違いしたのか、長老がヘンなことを言い出した。
「……さすがエルフの勇者、まさか気づかれていたとは……!」
「へ?」
「ここにある剣は、我らドワーフの創りし最高傑作……でもエルフの勇者が見抜いた通り、ドワーフ族の究極の頂点、至宝と呼ぶに相応しい未完成の剣があるッ……!」
「ファッ!?」
なにそれぼくそんなの知らない。
「先代のドワーフ長老……比類無き天才と呼ばれ続けた孤高の刀匠が、自らの死の間際、文字通り命を燃やし尽くして作刀した最高傑作……ドワーフすら絶対に不可能と言われた純度百パーセントのオリハルコンの剣、空前絶後の究極大業物……!!」
「そ、そんな凄い剣なんですか……」
「うん……ちなみにその伝説の刀匠だけど、工房で倒れているのを発見された時には既に息絶えてたんだ……そしてその手元には、完成まであと一歩という剣が残されてたんだよ……つまり、ドワーフ一の大天才が、命と引き換えにして作刀した未完成品ッ……!!」
なんか凄いヤツが出てきた。
少なくとも、ぼくなんかが触れて良い物じゃないような気がする。
ぼくはただ、宝剣を受け取りたくなかっただけなのに……?
そしてそれとは別に、引っかかったことが一つ。
「──えっと。でもオリハルコンの剣って、そんなに珍しいんですか?」
「どういうこと……?」
「ぼく、オリハルコンの剣を打ったことがあるので」
「はぁ……!?」
そう。
あれは、うにゅ子の中の彷徨える白髪吸血鬼を倒したとき。
エルフの長老による指導の下、ぼくはオリハルコンの剣を打ったのだった。
そんな話をしたところ、なぜかドワーフの長老がぶるぶると肩をふるわせて。
「キタ──────────────────ッッッッッッ!!」
そう絶叫して、長老は拳を振り上げたのだった。
****
……なんでもドワーフにとって最大のネックだった部分は「純粋なオリハルコンの剣を打つためには、途轍もない高純度の魔力が必要となる」ということで。
その点がどうしてもクリアできず、ドワーフ一の天才ですら純オリハルコン剣の夢は果たすことができなかったのだとか。
ぼくがそのことを聞いたのは、浮かれまくった長老がようやく落ち着いてからのことだった。
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