21章 裏ダンジョン

第218話 目からビーム

 ダンジョンから城に帰ってくると、前にも増して領都のあらゆる場所が工事していた。

 なんかこの街いっつも工事してるな、と思う。

 活気があるのはいいことだけど。


 ****


 留守番をしていたアヤノさんに、白銀のダンジョンで何があったか説明する。

 アヤノさんは相づちや、時には的確な質問をしながら話を聞いてくれて、最後まで話が終わると熱いお茶を呑んで一言。


「なるほど……それは災難でしたね」

「まあそうねえ」


 なにしろ目的のロック鳥はとっくに狩られた後だったのだ。

 災難であることには間違いない。


「それで、代わりのダンジョンを教えて貰ったと?」

「うん。熱いのは苦手だから譲るって」

「貴族どころか、エルフですらごく一部しか存在を知らない、裏ダンジョンですか……」

「アヤノさんは聞いたことある?」

「一切ありません」


 さもありなん。

 逆にアヤノさんが知ってたら、そもそもの前提が違うってなるし。


「それで閣下はいつ、そちらに向かわれるのですか?」

「えっと、アヤノさんたちに問題無ければ、すぐにでも行こうかと……」

「大丈夫ですよ。お気を付けて」

「……いいの?」


 いくらぼくが名ばかり辺境伯でも、そんなに出掛けてばっかりでいいのだろーか?

 そんなぼくの考えが顔に出たようで、


「──気にしなくても大丈夫ですよ。閣下が旅に出るというのは、それなりに意義のある仕事ですからね」

「へ? どゆこと?」


 思いも寄らないことを言われて首を捻ると。


「いいですか。閣下は城にいる分には、まあ普通の辺境伯です」

「うんまあその」


 ぼくだって、まさか自分が優秀な辺境伯だとは微塵も考えてない。


「なので閣下が城内にいても、せいぜい辺境伯一人分の労働力にしかならないわけです。そこまではいいですか?」

「うん」

「ですが、閣下が外に出ると話が変わります」


 そりゃまあ外に出たらゼロだからね、と思っていると。


「──ざっと計算して並の辺境伯、軽く千人分から一万人分の働きですね」

「なんで!?」

「士気高揚ですよ」


 アヤノさん曰く、辺境伯本人が前人未到のダンジョンを制覇することは、領民や兵士の士気高揚に大きな役割を果たすんだとか。

 まあ言ってることは分かるけど……


「それでも千人から一万人分は大げさでは?」

「普通の冒険者が制覇しただけでは、それほどの効果は無いでしょうが、なにしろ閣下は領都どころか大陸を越えて大人気の兄様王ターレンキングですからね。みんな大喜びで話に飛びつくと思いますよ?」

「それって嬉しいような、嬉しくないような……」

「それだけ領民はみんな閣下のことが大好きと言うことです。諦めてください」

「まあそうかもだけどさ……」

「閣下が戦争でバカ強いだけでなく、今まで領民に寄り添った統治をしてきたからこそ、領民からここまで慕われているのです。素直に誇るべきかと」

「あはは……」


 真正面からそう褒められれば、さすがに照れくさいわけで。


「てことは、今度のことも世間に伝わるのかな?」

「そうなりますね。──聖教国の霊峰、前人未到のダンジョンを初めてクリアした辺境伯。しかも山頂で、氷漬けになったエルフを救う──なかなかにドラマチックでしょう?」

「……ぼくはただロック鳥を狩りに行っただけなんだけどね……?」

「そういう俗物的な理由は大衆受けしませんので」


 アヤノさんに真顔で却下された時にふとティンと来た。


「ねえアヤノさん」

「なんでしょう?」

「……もしかしてだけど、兄様王ターレンキングがどうこうってアホな作り話を世間に流してるのって、アヤノさんだとか……?」


 違うと言って欲しかった。

 けれどぼくの思いとは裏腹に、アヤノさんは無表情で首を縦に振り。


「捏造にならない程度に統治者を持ち上げることは、円滑な統治の基本ですので」

「持ち上げすぎだよ!? そのおかげでぼくの世間での評判が、なんかとんでもないことになってるんだからね!?」

「いえ、むしろ閣下の場合は、成し遂げた功績が大きすぎてそのまま世間に情報を流すと逆に嘘くさくなってしまうので、上手く情報を流すのに苦労しているんですよ?」

「とてもそうは思えないんだけどねえ!?」


 なにしろ世間では、ぼくは目からビームまで撃てるという噂すらあるらしい。

 それってもはや領民に親しまれてるとかのレベルを超えてると思うの。


「ですが閣下の場合は実績があまりにもアレ過ぎるので、嘘くさい逸話を挿入することで覇業のインパクトを緩和した方が結果的には上手くいくかと……」

「それっぽい理由を付けてもダメなものはダメです!」


 というわけで、以後あんまりむちゃくちゃな噂は流さないよう約束して貰った。

 アヤノさんは残念そうな顔してたけれど、ぼくが恥ずかしすぎるからね。


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