第217話 真っ白な灰になって崩れ落ちる
うにゅ子が鼻を激しくふんすふんすさせながら、熱い眼差しでエルフさんを見つめる。
そんな様子に気づかないエルフさんはなおも続けて、
「戦場における判断の正確さに圧倒的な攻撃力、そして変幻自在の魔法とそれを操る魔力。姉さんはエルフの中でも比類無き戦士だった」
「うにゅ!」
「……ある日を境に姿を消してしまったが、それでも私たちは姉さんが不覚を取ったとは思っていない。なぜならわたしの姉さんが、負けるなんて想像も付かない。それほど皆に信頼されたエルフだったからだ」
「うにゅ! うにゅ!」
うわぁ、うにゅ子めっちゃ喜んでる。
「わたしはいつの日か姉さんに追いつきたい、姉さんの横に立ちたいと願い修行を続けた。しかしそのたびに、姉さんがいかに偉大だったのか実感させられる」
「うにゅにゅにゅにゅ〜」
うにゅ子、今度は滅茶苦茶照れてデレデレ状態である。
「わたしの姉さんはわたしたちエルフから見ても可憐で、凜として、それでいて圧倒的に美しかった──それはエルフであることに慢心せず、いつも内心を磨き抜いていたからだ。わたしはあの人の妹として恥ずかしくないよう、血の滲むような鍛錬を自己に課してきたつもりだが……やはりまだまだだな」
「うにゅうにゅー♪」
調子に乗りすぎたうにゅ子、ついにエルフさんの後ろで腰振りダンスを始めてしまう。凄くダンサブルな動きだ。
アレですよアレ。
幼女が嬉しさの頂点に至ったとき、お尻をフリフリするというやつ。
当然ながら色気の欠片も感じられない。
しかしまあ、エルフさんのうにゅ子への印象は最高だ。
後はタネ明かしをするのみ。
背後から近づいたうにゅ子が、エルフさんの肩をポンポンと叩き。
振り返ったエルフさんに、自分の方に親指を向けてドヤ顔をかます。
するとエルフさんは一言。
「──つまり姉さんは、この膨れ饅頭のごときアホ幼女とは正反対なわけだ」
「うにゅ──────────っ!?」
ガガーン、と背景に雷を幻視するほどショックを受けるうにゅ子。
……ていうか元の姿に戻りさえすれば、すぐにエルフさんの誤解は解けるだろうに、などと思いつつ。
真っ白な灰になって崩れ落ちるうにゅ子に、ぼくはただ黙祷するしかないのだった。
いやあ。
天国から地獄とは、まさにこのことですね。
****
まあアレだ。
うにゅ子はドッキリを仕掛けようとした結果の、不幸な事故ということで。
ぼくらが世界一高いダンジョンの頂上まで来た理由は本来、うにゅ子の生き別れの妹を探すためではない。
ユズリハさんの儀式のために、ロック鳥を狩りにきたわけだ。
そしてエルフさんもまた、山頂で狩りをしていたとのこと。
というわけで、何か知らないかと聞いてみれば。
「──ロック鳥? そんなのはもういないぞ」
「え?」
「とっくの昔に、わたしが狩って食べた」
「えええええええええええっ!?」
なんということでしょう。
お目当てのロック鳥は、とっくに狩られていたらしい。
「それがまた、この世とも思えぬ美味でな。ついもう一羽見つからないかと、この山頂でずっと張り込んでいたのだが、何百年経ってもそんなものは姿を見せず……いつの間にか、逆にわたしが氷漬けになってしまったのだ」
「はあ……」
つまりアレか。このエルフさんが氷漬けになった理由は、食い意地が張っていたからと。
それはそれでどうかと思う。
「しかもそれって、軽く千年以上は昔の話ですよね……?」
「間違いないな。お主らの話を聞く限り、わたしが氷漬けになって少なくとも千年以上。ロック鳥を狩ったのは、その数百年前だからな」
「ですよね……」
要するに、とっくの昔にロック鳥なんてのは消えて無くなっていたのだ。
これが普通の山なら、もう山頂にロック鳥がいない事実はとっくに広まっていただろう。
しかしこの山は、ふもとに辿り着くことすら困難な霊峰で。
それに、せっかく訪れた霊峰を語るときに「自分はロック鳥を見た」なんて、話を盛る人間だっていただろう。なにしろほぼ確実に嘘だとバレない。
そんなこんなで、未だにロック鳥がいるという噂ばかり残り続けたということか。
まあアレだ。
目的は果たせなかったけれど、うにゅ子の妹を助けられし結果オーライ……かなあ?
そんなことを考えていると、
「……その様子だと、ひょっとしてお主たちもロック鳥を?」
「ええ。こちらのユズリハさんのお祝いにと考えてたんですが……」
事情を話すと、エルフさんが一つ頷いて。
「なるほど。それは悪いことをした」
「いえそんな」
「──代わりと言ってはなんだが、ハイエルフに伝わる裏ダンジョンを教えよう」
「へ?」
そこからエルフさんの話すところによると。
エルフの中でもごく一部、認められたハイエルフのみ伝承されるダンジョンがあるとか。
その裏ダンジョンは白銀のダンジョンと比べても難易度が高く、出てくる魔物に至っては大陸一強力なのだという。
ユズリハさんが興奮した顔でぼくを見る。
「キミ、これは──!」
「そうですね!」
魔物が強い、イコール味が良くなるわけで。
ロック鳥は残念だったけれど、代わりに大陸一美味しい魔物がいるダンジョンの情報が得られたというのは悪くない。
というわけでぼくたちは、次の目標をエルフに伝わる裏ダンジョンに定めたのだった。
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