第216話 うにゅ子と生き別れの妹
魔獣の肉を食べさせながら、銀髪エルフさんのお話を伺う。
どうも彼女は山頂で狩りをしている途中、猛吹雪に遭い氷漬けになってしまったようだ。
とはいえ詳しいことは記憶の彼方らしい。
それでもいろんな話を聞いてみたところ。
なんとこのエルフさん、千年以上も氷漬けになっていたみたいだ。
「……改めて、エルフの生命力って凄いと思いますよ。ねえユズリハさん?」
「わたしはそのエルフを蘇生させたキミの方が、よっぽど凄いと思うがな」
「気のせいですよ」
そんな話をする横で、うにゅ子が何事か悩んでいた。
例えるならば、探偵が現場を見ながら「妙だな……」とか言ってるあの感じ。
「うにゅ子ってば、さっきから一体どうしたの?」
「うにゅー……?」
「カナデ。通訳お願い」
「……あのエルフ、うにゅ子と顔や髪色までそっくりなうえに胸がとてつもなくでかい。なのでうにゅ子のヒロインの座がぴんち、とあわてている」
「うにゅっ!?」
「しまったこれはこころの声」
「うにゅ──っ!!」
うにゅ子が腕をぐるぐる回してパンチしてくるのを、カナデが器用に受け流している。二人とも仲が良いよね。
「うにゅ! うにゅ!」
「……あとおっぱいとは別に、なんか見たことある気がするっていってる」
「元は同じ集落にいたとか?」
「あり得ますね、兄さん。千年以上前とはいえ、エルフの集落がそう幾つもあったなんて思えませんし」
「そうだねえ」
しかしあのエルフさん、豪快な食べっぷりだなどと思っていると。
「──うにゅっ!?」
うにゅ子が急に飛び跳ねたかと思うと、ぼくの袖を引っ張って物陰へと引っ張ってきた。
どうやら何か思い出したようだ。
「うにゅっ! うにゅっ!」
「カナデ。通訳」
「……あのエルフは、うにゅ子の生きわかれの妹」
「えええええっ!?」
いや確かに、顔立ちや髪の色、雰囲気なんかはそっくりなんだよね。
身長と胸の大きさが全然違うので、あんまりそうは見えないけれど。
「それに妹さんも、うにゅ子のこと気づかないんだね?」
「うにゅー!」
「エルフの里にいたころは、小さい姿にならなかったから」
なるほどね。それじゃ、今のうにゅ子を見ても分からないわけだ。
「それはそうと、なんですぐ名乗り出ないの?」
「うにゅにゅー……」
「うにゅ子の妹はそのむかし、うにゅ子にすごくなついて、うにゅ子をとてもそんけいしてた。でもうにゅ子は、吸血鬼を倒しにいったまま姿をけした。妹のきたいを裏切った」
「そんなことは……」
「なので、妹がいまもうにゅ子をおぼえてて、尊敬してるのかたしかめたい」
「ふむ」
「もし今もそんけいしてるなら、妹にうにゅ子のいいところを言わせまくってるとちゅうで、後ろからポンポンと肩をたたいてびっくりさせたい」
「なるほどねえ」
いわゆる御本人登場というやつだ。
逆に印象が悪くなってるようなら、そのまま名乗り出ないということか。
ぼくから見れば別に家族なんだから名乗り出ればいい気もするけど、それはまあ様々な思いがあるんだろう。
「じゃあぼくが探ってみるよ」
「うにゅ!」
というわけで物陰から戻り、エルフさんの前に陣取る。
エルフさんはちょうど肉を食べ終わり、お腹をさすりつつユズリハさんと談笑していた。
こうして並んでると、本当にどっちがエルフか分からなくなる。
エルフ顔負けの美貌とスタイルを併せ持つユズリハさんが異常すぎるんだけどね。
「エルフさんエルフさん、よろしければ聞きたいことが」
「なんだ? お主はわたしの命の恩人だからな、知っていることならば何でも教えよう。ハイエルフに代々伝わる秘密とか」
「そんな大層なことは聞きませんよ!?」
初手の感触は上々。これならスムーズに聞き出せそうだ。
そんなエルフさんの背後には、うにゅ子が不安げな様子でスタンバイしている。
「エルフさんの家族ってどんな感じだったのかなって。ああもちろん、言いたくなければ答えなくて大丈夫ですので」
「そんなことは無い。──そうだな、わたしには姉が一人いた」
「うにゅ……!」
うにゅ子が小さな拳を握りしめ、固唾を呑んで見守っている。
「どんなお姉さんでした?」
「そうだな。一言で表せば」
過去に思いを馳せるエルフさん。そして、
「──わたしの姉は、エルフの中のエルフというべき存在だった。今でもわたしの、いや全エルフの憧れだな」
「うにゅ────っ!!」
うにゅ子が文字通り飛び上がった。
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