第213話 メイドななつ道具
山のように積まれていた肉の山が、すっかりみんなの胃袋に消えて。
さて次は、どこに魔獣がいるかなと魔力をサーチしていると──
「なあキミ、肉もいいが次は魚もいいかもしらん。魔獣サーモンの炭火焼きなんてどうだ。皮の部分の脂がじゅわっとしたところなんか堪らん。スズハくんもそう思わないか?」
「全面的に賛同しますが……魚の場合も魔獣と呼ぶのでしょうか。それとも……魔魚?」
「ていうかダンジョン内に川が流れてるかは知りませんけどね」
「それよりも、上へ向かう階段は探さなくていいのだ……?」
いや探しているけどさ、もう少しこの階に留まっててもいいと思うの。
上の階にもこれほど魔獣が豊富だという確証はない……あれ?
「どうかしましたか、兄さん?」
「いやね。ごく薄い、今にも消えかかりそうな魔力が引っかかったんだけど……」
「獲物ですね!」
「それが魔獣の魔力っぽくないんだよなあ。どっちかというと、うにゅ子の魔力にかなり近いんだけど……?」
「しかしキミ、うにゅ子はカナデの頭の上にいるぞ」
「うにゅー?」
「そうなんですよねえ。うーん……」
そして全員で首を傾げることしばし。
「……兄さん。それってもしかして、うにゅ子さん以外のエルフがいるのではないかと。しかも今にも消えかかりそうというと……」
「遭難!」
ぼくらが慌ててかまくらを飛び出したのは言うまでもない。
****
そして反応のあった場所にたどり着くと、そこには大規模な雪崩の痕跡があった。
「これは、雪崩に埋まっちゃった感じかな?」
「掘り出しましょう、兄さん! とはいえスコップも持ってないですが……」
「うーん……」
どうしたものかと考えていると。
寒さ対策でぼくに抱えられたカナデが、くいくいっと指を向けてジェスチャーしてきた。
どうやら話を振って欲しいご様子。
「カナデ、何かいい方法ある?」
声をかけると、ぼくに抱きかかえられていたカナデがぴょんと飛び降りて。
「てててて〜。メイドななつ道具のひとつ、ふんさいスコップ〜」
謎の効果音とともに、折りたたみ式のスコップを取り出した。
……胸の谷間から。
「え、なに? そのスコップ、谷間に収納してたの? 本当に?」
「兄さん、乙女の谷間は秘密の花園です。詮索は禁物ですよ?」
「そうだぞキミ。ちなみにわたしだって、アレくらいやろうと思えば余裕だがな!」
「うにゅー!」
いやうにゅ子、キミには絶対無理だと思うよ?
「……まあ収納場所はともかく、カナデのおかげで大分掘りやすくなったということで」
ふんさいってどういう意味さ、などと聞くのも忘れたまま掘り進めていくと。
果たして、雪の下から半分氷漬けになったエルフが出てきた。
やたらと美人でスタイルがいいので、きっとエルフだと思う。多分。
「ていうか魔力があるってことは、この状態でも死なないんだねえ。エルフしゅごい」
「だがお主、どうするのだ……? このままだと普通に死んじゃうのだ」
「そこはぼくの治癒魔法でファイト一発」
「おぬし、治癒魔法まで使えるのだ!?」
あれ、ツバキはぼくの魔法見たことなかったっけ。
まあ使い勝手が悪すぎる魔法だから、そうそう見る機会も無いはずだけど。
「……って、ツバキも見たことあるでしょ。ムラマサ・ブレードを解呪した時に」
「人命救助と呪いの解呪は、まるっきり違うと思うのだ……?」
「似たようなもんなのだよ、きっと」
ツバキが後ろで「ド偏見なのだ……」とか呟いてるのを無視して、即席かまくらを作り火をおこして氷を溶かし、そして治癒魔法。
無事、瀕死のエルフを蘇生することに成功したのだった。
****
お話を伺って驚いた。
なんとこの白銀のダンジョン、聖教国のみならずエルフにとっても聖地なのだとか。
「とは言っても、聖教国は山そのものが霊峰ですが、エルフにとってはダンジョンこそが重要なんですけどね」
「そりゃあそうですよね」
さすがは悠久の時を生きる種族、エルフ。
真に美味しい狩り場は、しっかりと熟知しているということか。
「ぼくもここに来てビックリしました。みんな美味しすぎるというかなんというか」
「えっと……?」
ぼくの熱い同意に、なぜかエルフさんは首を傾げて。
「何か勘違いをしているようですが、魔獣の味のことではないですよ?」
「なんと!?」
ショックを受けるぼくを尻目にスズハが聞いた。
「それでは、なぜダンジョンが重要なのでしょう?」
「……あなたたちは命の恩人なのでお教えしますが、このダンジョンではその昔、少量のオリハルコンが採掘されていたのです」
「へえ」
そういえば、エルフにとってオリハルコンは大事だという話だったような。
「すでに枯渇したと聞いてはいたのですが……里を出るときに持ち出したオリハルコンが先日ついに無くなりまして、ワンチャン少しくらいなら掘れるかもと思って来たのですが、まるで見つからずそのうちに……」
「雪崩に巻き込まれたと」
そりゃあ大変でしたね、と同情する。
「それにこのダンジョンは、伝説のハイエルフも何度も通ったとされているのです」
「それもオリハルコン目的で?」
「いえ。そちらは、山頂のロック鳥を仕留めようとしていたようです。この山の頂上にはダンジョンを抜けないと出られないのだとか」
「へえ」
つまりこのダンジョンでは、山頂にいるロック鳥がボスみたいなものか。
「しかしエルフの方から見ても、ハイエルフというのは伝説なんですねえ」
「まあハイエルフは確かに珍しいですが……特に有名なハイエルフの姉妹がいたんですよ。その二人の活躍が余りに抜きん出ていたものですから、伝説と呼ばれているんです」
「なるほど」
「うにゅうにゅー」
うにゅ子がなぜかドヤ顔で腰をくねらせているけれど、ハイエルフならみんな伝説ってわけじゃないからね?
その後はオリハルコンに困っているならということで、ぼくの領地にあるエルフの里を紹介しておいた。
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