第206話 オークに襲われたときの授業

 今回のメンバーはぼくとユズリハさん、それに女騎士学園の実地訓練も兼ねて参加するスズハとツバキ。

 そして今度こそ魔獣の肉を食べたいと熱烈に主張するメイドのカナデ、そしてうにゅ子。

 ……まあ前回は、スズハがいつの間にか食べちゃったから仕方ないね。

 というわけで。

 以上の六人で、白銀のダンジョンへ向かうことになった。


 ****


 街道を歩き、森を抜け、山を越えていく。

 そうやって歩きながら話していると、ユズリハさんはダンジョンの経験者であることが判明した。

 しかも複数回経験の実力派。

 さすがは天才爆乳美少女騎士ユズリハさんである。


「──ダンジョンで危険な魔物といえば、やはり筆頭はオークだろうな」


 森の中を歩きながら話すユズリハさんに、スズハが首を傾げて。


「オーク……ですか? 豚の魔物の?」

「そうだ」

「オークのどこが危険なんでしょう?」


 確かにぼくもそこは疑問だ。

 オークとは豚が人型になったような魔物で、はっきり言って強くない。

 これが一文字違いのオーガだったら、体格も戦闘力も段違いだけれど。


「しょせんは豚が魔物になっただけですよね?」

「いいやスズハくん、その考えは違うぞ。そこらにいるオークならなんでもないんだが、ダンジョンのオークは違うんだ」

「そうなんですか」


 ダンジョンのレベルに応じて魔物の強さも変わると聞くけれど。

 高レベルのダンジョンに棲む魔物だと、オークでもそこまで強くなってしまうのか。

 ぼくたちの驚く様子を見たユズリハさんが神妙に頷いて、


「うむ。しかもオークは男しか生まれないうえ、とても性欲が高くてな」

「はい」

「こちらが人間の女とみると、捕まえて繁殖しようとしてくる」

「ひえっ!?」

「しかも顔が豚で人型の魔物だからな。そんなのに集団で殺到されたら、慣れていないととっさに身動きができなくなってしまう危険性も高いんだ。だから女騎士学園の授業には、オークの対処法なんてものがある」


 そんな授業まであるのかと感心していると、スズハとツバキの二人が否定した。


「ユズリハさん。わたし、その授業は知りません」

「拙も知らないのだ」

「ん? 今だと、オークに襲われたときの授業をやらないのかな……?」

「……まあでも、そういう授業も大事ですよね」


 ぼくが雑なフォローを入れると、ユズリハさんが顔を大きくほころばせ。


「さすがスズハくんの兄上だな! よく分かってるじゃないか!」

「……いえ、それほどでも……」


 雑にフォローした自覚があるだけに、凄く喜ばれるとちょっぴり罪悪感がある。

 そんな罪悪感が後押ししたぼくは、


「せっかくですから、進みながらオークの対処法を講義をしても良いかもしれませんね。ついでに実技なんかも──あっ」


 すぐに余計なことを言ったと気づいたけれど、前言を撤回しようとする前に。

 ユズリハさんに満面の笑みで肯定されてしまったのだった。


「さすがわたしの相棒、悪くない考えだ! ぜひそうしよう!」

「……ソウデスネ」


 再確認するまでもなく、このメンバーで男性はぼく一人。

 そしてオークは、男しかいない性欲の高い魔物である。

 ということはぼくが、オーク役になりそうだよね。ちょっと嫌だなあ。


 ****


 奥深い森に、ユズリハさんの玲瓏たる声が響く。


「オークの醜悪な外見とその悪臭に慣れていない新米女騎士は、万全の力を発揮できずに、そのままやられてしまうというのが典型例だな。なのでまずわたしとスズハくんの兄上で、その場面から実践してみよう」

「……えっとユズリハさん、戦闘シーンから実践する必要はないのでは?」

「なにをゆー。いいかキミ、オークの戦闘は特殊で、女騎士の乳や尻を執拗に狙うんだ。もしくはとにかく押し倒そうとする。女騎士にのしかかり、屈服させようとするんだな。まあオークの戦闘目的を考えれば当然のことだが」

「……それ、ぼくが再現するんですか……?」

「できる範囲でいい。もちろんわたしも可能な限り、オークに抵抗しようとする女騎士を再現するから、なっ──!!」


 ユズリハさんが、そう言い終わるのと同時に。

 ノーモーションで、音速を超える速さの回し蹴りを放ってきた。

 もちろんユズリハさんの本気ではないので、なんなく躱す。


 その後もユズリハさんの、必死で抵抗している新米女騎士っぽい攻撃──実際は簡単に躱せる攻撃が連続する。

 ぼくがオークらしい反撃を考えながら躱していると。

 風に乗って、スズハとツバキの会話が聞こえてきた。


「──なるほど。さすがユズリハさん、ずっこいですね」

「どうしたのだ?」

「ユズリハさんは新米女騎士の役だと言っていましたが、今のユズリハさんはどう見ても全身全霊、ガチで兄さんに一撃ぶち込もうとしてますね?」

「うむ。それは間違いないのだ」

「あれって単純に、兄さんから一本取りたかっただけじゃないのかと……」

「でも一方的にやられまくってるのだ……」

「しかもユズリハさんは新米女騎士という役なので、兄さんに一撃も入れられずブザマに負けても、役割通りと言い張れますし」

「いやしい女なのだ」


 ……よく聞こえないんだけど、なんか二人でユズリハさんの悪口言ってない?



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