第202話 燃えたろ?
ダンジョンの中は、思いのほか順調に進んでいった。
正確に言えば、トーコさんが絶好調でありかつ独壇場だった。
それが具体的にどんな状態なのかと言えば。
「……兄さん、前方にゴブリンの集団です」
ダンジョンの中を歩く途中、斥候役のスズハやツバキが魔物を見つけると。
するとぼくは、厳かに背後へ声を掛ける。
「先生、お願いします」
「どうれ」
するとトーコさんが顎をさすりながら、のそりとぼくの前に出て。
「ファイヤーボール!」
トーコさんが魔法を放つと、人間の上半身ほどもある大きさの火球が、魔物へ向かって一直線に飛んで行き大爆発。
爆風が収まった後には、消し炭になった魔物が残るのだった。
「──燃えたろ?」
そんなの見れば分かると思う。
キメキメの顔で髪をかき上げつつ謎のセリフを呟くトーコさんに気づかれないように、ジェスチャーでツバキを呼び出して小声で問いただす。
「……ねえ。本当にアレ、東の大陸だと格好良いの?」
「なのだ。ピンチに現れる用心棒、爆発、そして決めゼリフ。どこを取っても格好良い。格好良さの欲張りハッピーセットなのだ」
「マジか……」
自分が活躍したいと手を上げたトーコさんに、ならば格好良い方がいいとツバキが提案、そして試しにやってみた東の大陸式討伐。
ぼくには何が何だかさっぱり分からないけれど。
トーコさんもノリノリだし、スズハも目を輝かせてるので、まあいいか。
「……でもそれはいいとしてさ、アレなんとかならないのかな?」
「なんなのだ?」
「火力」
とにかくトーコさんのぶっ放す爆発魔法は強力無比。
今まで出会った魔物をみんな良くて消し炭、大抵は跡形もなく消し飛ばす。
まあ今までの魔物は食べられないヤツばっかりだったし、それは別に良いんだけど。
問題は。
「……なんかさ、もの凄くパンチラしない……?」
「滅茶苦茶するのだ」
「あれって何とかならないのかな……」
爆発が強力ということは、爆風も強力なわけで。
トーコさんが魔法をぶっ放すたびに、スズハとツバキのスカートが爆風で数秒もの間、思いっきりはためきまくるのだ。
まあトーコさんはホットパンツだから影響無いし、スズハとツバキはお子ちゃまだから別に問題はないけれど。
ホント、この場にユズリハさんがいなくて良かったと心の底から思っていると、
「ん? どったの、スズハ兄?」
「いえ、なんでもありませんよ」
サッと顔を上げ、なんでもないと首を横に振る。
「トーコさんの火魔法は、本当に凄いなって感心してたんです」
「んふー、そうでしょそうでしょ?」
「……」
ここで、まさか「皮肉ですが」なんて言えるはずもなく。
「いやもう、威力が凄まじいから爆風も凄くって」
「そうかなぁ!? いやー、ボクはただ単にファイヤーボールを出しただけなんだけど!? それに普通だとファイヤーボールなんて、握り
「……ソウデスネ……」
ならばコントロールを身につけろと言いたい。とても言いたい。
けど魔力が強いほど細かいコントロールが苦手なのは、あるある話でもある。
それにぼく自身も、魔力を全くコントロールできない口だしね。
「でも、もう少しだけ威力を抑えてもいいかも……?」
「ん、なんで? 派手な方がカッコイイじゃん」
「それはパンチラ──いえなんでも」
「なーに?」
その時ぼくは気づいた。
きっとトーコさんは、毎回ずずいと前に出てから魔法を放つせいで、二人のスカートが背後で思いっきり捲れてるのに気づかないのだ。
そうと分かれば話は簡単。
なにしろ彼女は、スズハやツバキと比べて大人の常識人なのだから。
「トーコさん。一つ提案が」
「なによ?」
「トーコさんが魔法を放つ瞬間を間近でじっくり見たいと思いまして」
「ふうん?」
「なので次の魔物が出たら、ぼくたちの前に出ないで魔法を放ってもらえませんか?」
「なによスズハ兄ったら、嬉しいこと言うじゃない。しょーがないわねー」
トーコさんは終始ニコニコしながら、ぼくのお願いだからと快諾してくれた。
そして次の戦闘直後。
「なっ、ななななによあれはっ──!?」
根は乙女なトーコさんが、スカートが盛大に舞い上がりパンチラしまくるスズハたちの姿に真っ赤になって。
それ以降、爆発魔法の威力はおよそ半分になったのだった。
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