第194話 女王を抱いたら、妹も抱く──それが真の公平ってヤツではないでしょうか

 アヤノさんたちに留守を任せて、城を出てダンジョンへと向かう。


 メンバーはぼくとスズハ、トーコさん、ツバキにメイドのカナデとうにゅ子。

 せっかくなので女騎士学園分校の生徒も実習ついでにどうかと声を掛けたんだけれど、参加したのはツバキ一人だった。

 他の生徒たちはダンジョンなんて危険すぎる、みたいな反応だった。

 大げさだなあ。


 そんなぼくたちは森を抜け谷を越え、順調に進んでいく──のはいいんだけど。


「……トーコさんもいるのに、こんな少人数でいいんだろーか?」


 幅五十メートルのクレバスをジャンプしつつ呟くと、ぼくの腕に抱かれたトーコさんが不思議そうに聞き返してきた。


「なにか問題あるの?」

「いやだって、女王のトーコさんが出掛けるんですから、護衛部隊が必要じゃないかと。近衛騎士とかそういう」

「スズハ兄ってば、この前もそんなこと言ってたね?」


 トーコさんがぼくにお姫様抱っこをされたまま、器用に肩をすくめて。


「んなもん要るわけないでしょ。前と違ってユズリハはいないけど、それでもスズハ兄もスズハもうにゅ子もいるし、あのツバキって異大陸の子も強いみたいじゃない?」

「スズハと同じかそれ以上には強いので、普通の盗賊とかには負けないかと」

「なら平気に決まってるでしょ」


 まあうにゅ子がいる段階で平気なのは間違いないか、と思いつつ着地してまたジャンプ。

 なるべく腕に衝撃が伝わらないように微調整する。


 ──ところで、どうしてぼくがトーコさんをお姫様抱っこしているのかというと。


「うーん、やっぱりちょーっと怖いかな? スズハ兄、もーすこし強く抱いて」

「えっと……こんな感じですか?」

「そうそう。ボクはひ弱な女の子なんだから、落ちないようにしっかり抱きしめてね!」


 そうなのだ。

 ぼくたちは邪魔になる馬車も無いからと、険しい峡谷や滝が連続する近道を選択した。

 道中はクレバスや毒沼なんかもあって一般的には危険だけれど、スズハやカナデくらいの身体能力があれば問題無く通過できる。

 ところが実際の道を見て、即座にムリだと悲鳴を上げたのはトーコさん。

 魔導師だし魔法で空を飛ぶとかするかとか思ってたけど、そんな魔法は無いんだとか。


 なのでどうしようかと考えた結果。

 あろうことかトーコさんが「スズハ兄がボクをお姫様抱っこすれば万事解決!」というアイディアを出して。

 スズハが猛反対したものの、結局いい代替案が出せずに決まったのだった。


 ……ちなみにスズハは「わたしがトーコさんをお姫様抱っこします!」と息巻いたが、実際やってみてムリだと分かった。

 お互いの大きすぎる胸がぎゅうぎゅうと押しつけ合って、そりゃもう凄かったのだ。


「兄さん!」


 そんなことを考えながら進んでいると、頭にうにゅ子を乗せたスズハが近づいてきて。


「もう少しで、普通の道に戻りますね!」

「そうだねえ」


 ぼくたちの視界の少し先には、鬱蒼とした樹林帯が広がっている。

 跳んだり跳ねたりで進む箇所は、そろそろ終わりのようだ。

 ようやくトーコさんを降ろせると内心ホッとしているぼくに。

 なぜかスズハが、おかしな要求をしてきた。


「森に入ったら、次はわたしをお姫様抱っこしてください!」

「うにゅー!」

「……なんで?」


 ぼくが当然の疑問を投げると、スズハがむやみやたらと成長した胸を張って。


「それが公平というものだからです!」

「意味が分からないよ!?」

「女王を抱いたら、妹も抱く──それが真の公平ってヤツではないでしょうか!」

「ないと思うなあ!?」

「くっ……この流れるような理論で、まさか兄さんを言いくるめられないとは……」

「う、うにゅー……!」


 なんで言いくるめられると思ったかの方が疑問だよ。

 あとうにゅ子も、なんでスズハの頭の上にしがみつきながら残念がっているのか。

 兄としてスズハの将来を心配していると、今度はスズハの反対側からメイドのカナデが、銀髪ツインテールをたなびかせながらやって来て。


「ご主人さまにされるお姫様だっこ。とてもみりょく」

「あはは。カナデも疲れたらやってあげるよ」

「……そういえば疲れてきたかも」

「そうは見えないけど?」

「……メイドのからだは、とてもか弱い。あとはその、持病のしゃくが」

「しゃく?」

「しゃくとは、か弱いメイドがとつぜんなる病気。いまも胸がいたい……気がする」

「ホントに……?」


 なんというか、カナデの仕草が凄く演技っぽい。

 どうしようかと考えたけれど、ここはあえて乗ってあげることにした。

 最年少のカナデが珍しく見せたワガママ、できれば叶えてあげたいからね。


 ****


 その後、樹林帯の手前まで来たところでトーコさんを降ろしてから、代わりにカナデをお姫様だっこして歩いた。

 スズハがぼくたちを見ながら大いに悔しがってたんだけど、兄にお姫様だっこされてなにが嬉しいのかと問いたい。

 それに女騎士見習いたるもの、ラクをしようとしちゃダメだよね。

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