第186話 相棒としてごくごく自然な行為

 カナデのメイド流尋問がうなりを上げて、侵入者から情報を限界まで搾り取った結果、これで侵入者は打ち止めという結論になった。


「メイド的にまちがいない。もしちがったら、えっちな折檻してもいい」


 などとスイカ大の胸を張っていたので、辺境伯領はアヤノさんたちに任せることにして、ぼくらは異大陸の大艦隊がいる港町へと向かった。

 もちろん道中で情報収集することも忘れない。


「すみませんー、だんご三人前ください」

「あいよ、だんご三人前!」


 立ち寄った茶店で三色だんごを買い求め、スズハとユズリハさんに一本ずつ渡しながら、だんご屋のおばちゃんに話を聞く。


「ちょっと人を探してまして。この街道を最近通ったと思うんですが」

「どんな人相だい?」

「男女の二人組なんですけどね。男の方はいかにも冴えないバーテンダー顔の成人男性、女の子の方は異大陸の武芸者の格好で、滅茶苦茶可愛い美少女で、死ぬほど大きい胸元をサラシでぎゅうぎゅうに潰してるっていう」

「間違いなくあの二人だね……半日前に見たよ!」

「ありがとうございます」


 ホッとして礼を言う。

 ツバキたちとの距離は着実に近づいているようだと、ひとまず安心する。


「兄はん。ひひっふうっはけひー」

「……ねえスズハ。口の中が詰まってたら、言ってることが分からないよ?」


 ぼくが指摘すると、追加で自腹購入したらしい、口いっぱいに詰め込んだ草だんごを「んがぐぐ」と呑み込んで。


「ツバキさんたち、無事だといいですね」

「……うん。そうだね」


 ぼくの手には、忘れていったツバキの愛刀ことムラマサ・ブレードが握られている。

 それはもちろん、本当に忘れていったわけじゃなくて、所有者であるぼくに戻すという意思の現れなのだろうけれど。


 それでもぼくは、ツバキに刀を「忘れ物だよ」って届けたくて。

 だからちゃんと生きて帰ってくるんだよって伝えたくて。


 ぼくが思うに……それが、講師の役割というものなのだ。

 たとえそれがぼくのような、庶民学担当のロクでなし講師であったとしても──


「ふふふぁふんほんほおおお。ふぁえふふぁひ?」

「あなたもですかユズリハさん」


 ぼくが指摘すると、ユズリハさんはリスみたいに頬張っただんごをごっくんして、

ぼくにだんごの串をビシッと向けた。


「この店のみたらしだんごは大変美味い。スズハくんの兄上も食べてみるといいぞ?」


 ほれほれと、串に一つだけ残っただんごを、ぼくに向かって差し出してくる。

 そういうことなら有り難く。


「じゃあいただきます。──あむ」

「へっ……?」

「うん、美味いです。……あれ……?」


 ぼくがだんごを食べて顔を上げると、なぜかユズリハさんが笑顔のまま固まっていた。

 どうしたのだろう。

 そう思いながら口をもぐもぐさせていると。


「えっ、兄さん──!? そ、それって、間接××ピー……」

「ち、ちちちち違うッッッ!!」


 復活したらしきユズリハさんが、えらい剣幕で慌て始めた。


「い、今のは違う! 今のスズハくんの兄上の行為は、決して間接××ピーなどではなくて、そのアレだ、相棒としてごくごく自然な行為とゆうか! つまりだ、互いが互いを完璧に信頼しきっているからこそ間接××ピーで、ならばもはや二人は入籍するしかないのでは!? スズハくんの兄上もそう思うだろう!!」

「言ってる意味が分かりませんよ……?」


 一つだけ分かったのは、あのだんごを食べちゃったのはマズかったということ。

 失敗したなあ。

 庶民同士だと、差し出されたものを食べるなんてよくあるんだけど。


「すみません。ユズリハさんのだんごが美味しそうだったので、つい食べちゃいました」

「い、いや……それはいいんだが……できればわたしも食べて欲……」

「ユズリハさん? 顔が赤いですね」


 それに自覚は無さそうだけど、発言の方もちょこちょこおかしい。

 ひょっとして熱でもあるのだろうか。


「すみません、ちょっと失礼」

「へ? スズハくんの兄上、なにを──ひゃうっ!?」


 ぼくが額をユズリハさんのおでこにつけて、熱を測ると。

 ユズリハさんは「ぷしゅー……」なんていう気の抜けた声とともに、のぼせてその場で倒れてしまったのだった。

 幸い、軽度の熱中症か何かだったようで、だんご屋で看病しているとすぐに復活した。

 なぜかスズハの目が冷たかった。


 ユズリハさんはその後一日くらい、なんだか様子がおかしかった。

 公爵令嬢の考えることはよく分からん。


 ****


 急ぎ足で旅をしたつもりだったけど、結局ツバキたちに追いつくこと無く、ぼくたちは目的の港町までやってきた。

 沖合を見ると確かに、遠くの方に軍船が何十隻も浮かんでいるのが見える。


「さて兄さん、これからどうするんですか?」

「これからぼくは、ちょっと用事があるんだ」

「用事ですか……?」


 不思議そうな顔をするスズハにうんとだけ答えて、


「その間、二人には頼みたいことがあって」

「そうか! 他ならぬ相棒のキミの頼みだ、なんでも言うがいい!」

「ではユズリハさん、水着を買ってきてください。ぼくと、二人の分も合わせて三つ」

「「…………はい?」」


 二人の目が点になった。

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