第180話 ここにいるのってみんな、大国とか有力国の王様だから

 式典を翌日に控えて、ぼくが知識の詰め込みをしていた昼過ぎのこと。


「スズハ兄、ちょっといい?」

「なんでしょう」

「ボクと一緒に、会議に出て欲しいんだよ」


 なんでも参加人数もごく少数だし、非公式の会議なので作法は気にしないでいいという。

 ならばと気軽に了解し、トーコさんの後に続いて会議室へ。


 重厚な扉を開けて会議室に入ると、そこはもう煌びやかな調度品で溢れかえっていた。

 シャンデリアとかキラキラしてるし、座る椅子も一つ一つの繊細な彫刻が彫られていたり。

 会議室の中でも、一目で最高級のランクだと分かる。


「御前会議でもできそうですね……」

「スズハ兄はすっかり忘れてるみたいだけど、ボクってば女王だからね? つまりボクが参加すれば、どこでも御前会議になるから」

「そうでした」


 会議室に人影は見当たらず、どうやらぼくらが一番乗りかと思っていると。

 トーコさんが会議室の奥へと歩いて、据え付けの本棚に手を掛けた。


「ねえスズハ兄。これから見ることは絶対に、誰にも言っちゃダメだからね」

「はい……?」

「たしか、これをこうして……」


 トーコさんが本棚の本を入れ替えたり、本の後ろにあるスイッチを押したりしていると。

 やがてゴゴゴゴ……という音とともに、本棚がずれて秘密の通路が姿を見せた。


「うわっ!?」

「この通路のことは、ユズリハでも知らないんだから。さすがに公爵は知ってるけどね」

「そんな秘密の通路、ぼくが知ったらダメなんじゃ……?」

「ダメだったら見せるわけないでしょ」


 その先にある階段を降りていった先にあるのは、こぢんまりとした会議室だった。

 先ほどの会議室と比べてシャンデリアみたいな華やかさは無いものの、重厚な雰囲気はむしろ増していた。

 テーブルの黒光りが凄い。

 会議室には既に十人ほどが座っており、ぼくらが最後のようだ。


「ねえスズハ兄。いちおう言っておくけど」


 トーコさんがぼくの耳元で、とんでもないことを囁いた。


「ここにいるのってみんな、大国とか有力国の王様だから」

「はいぃ!?」


 言われてよくよく見てみると、奥側の席にはトーコさんによく似た女性が座っていた。

 聖教国の聖女様に違いない。

 そのほかにも、どこかの肖像画で見たような偉そうな人がちらほら。

 ちなみにアヤノさんにとても似ているウエンタス公国の女大公は見当たらなかった。


「なんでぼくがこんなところに……?」


 ぼくが当然の疑問を聞くと、トーコさんの答えはシンプルなもので。


「そりゃスズハ兄が、この会議の主役だからよ」

「ええっ!?」

「とりあえずスズハ兄は、そこに座ってればいいから──じゃあ始めましょうか!」


 そうして、ぼくを末席の椅子に座らせたトーコさんは。

 大国の王たちに向かって、会議開始を宣言するのだった。


 ****


 たとえ何も知らないで座らせられても、黙って話を聞いていればおのずと会話の中身は呑み込めてくるもので。

 今回の秘密会議のテーマは、東にある異大陸の統一国家に各国がどう対応するべきかを話し合うものらしかった。


 ──なんでも異大陸の軍港から、大艦隊が出撃したとの情報があるのだとか。

 大陸が統一されて大規模な叛乱も無い状態で、大艦隊が出撃する理由を考えてみれば、最も有力なのは別大陸への侵攻なわけで。

 つまりこちらへ攻めてくるんじゃないか、と心配しているわけだ。


 ぼくの目の前では、喧々諤々の議論が交わされていて。


「──しかし今まで、異大陸の侵攻など無かったではないか……」

「そうだ。だが今はオリハルコンがある……」

「オリハルコンのためなら、魔獣の危険性を加味してでも異大陸にまで攻め込む価値は、十分にあるということか……!」

「それにヤツらは国を統一したばかり、過剰となった戦力の行き場も必要だろう……」

「しかしヤツらはどこから、オリハルコンのことを……?」

「どこかの愚かな国が売り払ったのではないか……」

「つまり、ヤツらの狙いは……」

「その場合、攻めてくると考えられるポイントは……」


 ──なるほどね。

 話を聞けば聞くほど、ぼくの辺境伯領が攻められる未来しか見えない。

 トーコさんもぼくを連れてくるわけだと納得する。

 けれどそれにしたって、有力国の国王が秘密裡に集まって話し合うことでもないような気がするけれど。


 それになんだか、ずっとみんながぼくのことをチラチラ見ているような……?


「おっと」

『!?』


 気が逸れた拍子に、手に持っていたペンを落としてしまった。

 目立たないようにこっそり拾い上げると。

 なぜだかみんなが、揃ってぼくのことを凝視していた。


 しかも今さら言うまでもないが、その全員が有力国の国王である。

 つまり圧が凄い。


「えっと、何か……?」

『…………』


 みなさんは何事も無かったように議論を再開した。

 でも今のは、いったい何だったんだろうか。

 隣同士で話してる王様もいるし、そこまで厳格な会議という感じじゃないけど。

 ぼくは気を取り直して、机の上に用意されていたクッキーを手に取り、


「あっ」

『──!?』


 つい手が滑って、クッキーが床に落ちてしまった。

 もったいないと思いつつ、目線を落としてクッキーを拾って顔を上げ、


『…………』

「……えっと?」


 またしても全員に、思いっきり注目されていた。

 こんな時にどんな顔をしていいか分からないでいると、


「はいはい。スズハ兄、ちょーっとこっちに来てね」

「トーコさん?」

「みんなスズハ兄に注目しまくってるから、スズハ兄が少し動いただけで会議が止まるし、集中力も途切れるってわけ。だったら司会のボクの横にいてくれた方がずっとマシだよ。というわけで移動して!」

「え、でもそっちは上座で……」

「いいから早く来る!」

「は、はいっ!」


 ……そんなわけで。

 その後ぼくは諸国の王様を差し置いて、上座でトーコさんの話を聞くという、ハードな苦行を体験をさせられたのだった。


 ****


 ちなみに、トーコさんの記念式典は無事に終わりました。

 ていうかぼくは、ずっとトーコさんの横にいるだけだったけどさ。

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