第168話 兄様王伝説

★お知らせ★

ツバキの刀の名前ですが、よく考えたら英字だと読みにくいので、

以降は「MURAMASA BLADE! 」→「ムラマサ・ブレード」となります。

あしからずご了承くださいませ。

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 翌日の放課後。

 女騎士学園分校の教室で、ぼくたちが見守る中でツバキがムラマサ・ブレードの刀身を抜くと、スズハとユズリハさんから「おおっ」という歓声が上がった。


「これが、兄さんの魔力を帯びた妖刀……!」

「うむ……! 光と闇が両方そなわり最強に見える……!」


 二人とも凄い食いつきだった。やっぱり妖刀カッコイイよね。


「少しわたしも振ってみたいのだが、いいだろうか……!」

「わたしもお願いします!」

「し、仕方ないやつらなのだ……ほい」


 まんざらでもない様子のツバキが刀を貸すと、二人が目をキラキラと輝かせながら刀を振ってみたり、決めポーズを取ってみたり。

 慣れない武器のはずなのに、ちゃんと二人とも様になっているんだよなあ。

 武器がカッコイイからだろうか。


 もちろん、刀を貸したツバキも鼻高々だ。


「ふふふん。拙も苦労をして、異大陸まで来た甲斐があるというものなのだ」

「まあ、あの刀の所有権はぼくにあるけど」

「がーんなのだ!?」


 初めて聞いたみたいな顔をしてるけど、昨日その話をしたばかりだからね?

 もちろん本気で取り上げる気は無いけど、慌てるツバキがちょっと面白い。


「じゃあお金返したら、売らなかったことにしてもいいよ?」

「……それが……借金の返済で全部消えちゃったのだ……リボ払い怖いのだ……」


 ツバキがなぜかガタガタ震えていた。

 ちなみにリボ払いというのは最近できた、追跡魔法を応用した金貸しのシステムらしい。詳しくはぼくも知らない。


 横からスズハが納得がいったという表情で、


「なるほど。つまりツバキさんは、刀の解呪方法を探して異大陸からやって来たと」

「違うのだ」

「違うんですか!?」

「拙がこっちの大陸に渡ってきた理由は、拙より強いヤツに会うためだったのだ……でも実際に来てみたら、拙よりも強いヤツがボコボコいて滅茶苦茶ショックを受けたのだ……拙は伝説を確かめに来たのに、もうそれどころじゃないのだ……」


 あるあるな話だよねえ。

 地元では一番だったけど、都会に出るとまあ普通みたいな話。

 なにせ都会には、それぞれの地元で一番だったヤツらが集まってくるわけだからして。

 その中でさらに一番になるのは、さらにそのごく少数でしかないわけだ。


「でも、東の異大陸って意外に小さいんだね」

「そんなこと無いと思うのだ……?」


 ツバキが首を捻っている横からスズハが聞いた。


「ツバキさんは、元々この大陸の噂を確かめに来たんですか?」

「そうなのだ。兄様王ターレンキング伝説なのだ」

「──兄様王ターレンキング伝説?」


 兄様ターレンっていうのが、アマゾネスが使う言葉なのは知ってるけど。

 いずれにせよ、こちらでは聞いたことのない噂だ。


「それってどんな話なの?」

「そりゃあアレなのだ。歴史の舞台に突然現れたかと思ったら大陸のピンチを救い、」

「ほう」

「悪の手先に囚われた王女を助けて、」

「ほうほう……?」

「一国一城の主になった後はオリハルコンを掘り当てた──」

「…………」


 その後、詳しく話を聞いてみて確信した。


 ぼくの話が、雑に美化されまくったあげく異大陸まで流れてるんですけど──!?


「──その時、兄様王ターレンキングは朗々と啖呵を切ったのだ。おれの女に手を出すヤツは、たとえ神だろうと許しはしない、と──!」


 しかも、絶妙におかしなキャラ付けまでされていた。

 楽しそうに語り続けるツバキを死んだ魚の目で見ていると、ユズリハさんがぼくの肩をポンと叩いたて一言。


「わたしにいい案がある」


 さすがは公爵令嬢、きっとナイスな解決策を出してくれるのだろうと期待していると、ユズリハさんがぼくとスズハにそっと耳打ちする。


「……アレはもう、いろいろ訂正せずにそのまま放っておこう」

「えええっ!?」


 まさかの放置プレイだった。

 スズハもどうかと思ったらしく、ユズリハさんに囁きかえす。


「さすがにそれは……」

「だが考えてみろ。ここで懇切丁寧に誤解を解いたとして、その後はどうなる?」

「というと……?」

「ツバキは兄様王ターレンキング、つまりスズハくんの兄上と戦いに来た。だが実際はもう戦っていて、しかもコテンパンにやっつけられている」

「ぼくのこと兄様王ターレンキングって呼ぶの止めませんか……?」

「話の流れ的に仕方ないだろう」


 ユズリハさんが顔を上げて、ツバキに問いかけた。


「なあ、もしその兄様王ターレンキングに会えたらどうするつもりだ?」

「決まっている。戦って勝つ、それだけなのだ」

「だが兄様王ターレンキングは強いぞ、負けたらどうする?」

「勝つまで戦うのだ。それが武士の生き様なのだ」

「…………」


 なるほど。

 これは真実を話したら、とてつもなく面倒なことになりそうな気がする。


 ****


 ──というわけで、三人が目配せで意思疎通した結果。

 ぼくがその珍妙な噂の当事者であることは、ツバキにはひとまず黙っておくと。


 そういうことに決まったのだった。

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