第156話 そりゃもう頑張ったので
王都に戻って取りあえずトーコさんに挨拶しに行ったら、なぜか滅茶苦茶キレられた。なぜなのか。
「ふ、ふーん……? スズハ兄ってば、伝説のエルフの里を見つけちゃったんだ。ふーん、へーえ、ほーお?」
「いやあ、偶然って怖いですね」
「でさあっ! スズハ兄が左右にエルフを従えているように見えるのは、ひょっとしてボクの気のせいかなあ!? しかもボクの記憶が確かならば、そこにいる二人のうち片方は彷徨える白髪吸血鬼だよねえ!?」
「それがですね、これには深いわけがありまして」
ぼくが左右にいるエルフ──長老とうにゅ子を交互に見ながら、トーコさんに説明する。
うにゅ子が元々、エルフの里のハイエルフだったこと。
うにゅ子と彷徨える白髪吸血鬼が遙か昔に戦った結果、その二つの存在が融合したこと。
その結果、彷徨える白髪吸血鬼は残ったものの、
しかしミスリル鉱山での戦いによりうにゅ子が幼女化し、彷徨える白髪吸血鬼を抑える力が弱まったこと。
なのでエルフの宝玉とオリハルコンの剣により、うにゅ子の中の彷徨える白髪吸血鬼を完全に退治したこと。
──そんな説明を終えると、トーコさんが深刻な顔で頷いた。
「うん。これっぽっちも分からないわ」
「ええええ!?」
「いやボクも、スズハ兄のやらかしが理解できるなんて考えはとっくに捨てたけどね? それでも今回はとびっきりでしょ──なにしろ伝説のエルフと、それから世界を救ったんだから」
「……はい?」
トーコさんってば、なにを突然いいだすのやら。
ぼくの不思議そうな顔を見たトーコさんが「まったくもう」と嘆息して、
「確認するけど、スズハ兄が彷徨える白髪吸血鬼と戦ったのは、今まで二回でしょ?」
「はい」
最初に遭ったのは子供の頃だけれど──その時には戦えただなんて、とても言えない。
「でさ。二回戦った後に、うにゅ子は幼女化したんだよね。それってもう、うにゅ子には元々十分な魔力が残ってなかったわけよ。彷徨える白髪吸血鬼を抑えつけられる、ね」
「そうなんですか?」
思わずエルフ二人を見たけれど、こくりと頷かれた。
詳しい説明をされてもどうせ分からないので、深くは聞かないでおこう。
「だから放ってても、数百年とか遅くとも数千年以内には、うにゅ子の抑えは無くなって、彷徨える白髪吸血鬼が大復活して大陸中のあらゆる文明は滅びたはずなのよ」
「まあそうじゃろうな」
エルフの長老が、シャレにならない相づちを打った。マジですか。
「人間の身でありながら、よくぞそこまで読んだな。小娘よ」
「まあボクも、これでも国一番の魔導師だからねー」
トーコさんが極めて大きい胸を張る。
……あれ?
じゃあ、さっぱり分からないって言ってたのはどういうこと?
「ぼくなんかより、トーコさんの方がよっぽど分かってるじゃないですか」
「なに言ってるのかなあ!? ボクにはスズハ兄が、どうやってフルパワー充電完了状態の彷徨える白髪吸血鬼と戦って勝てるのか、どうしても理解できないってわけよ!!」
「そりゃもう頑張ったので」
「頑張って勝てるんなら軍隊はいらないのよねえ!」
するとぼくの後ろで控えていたスズハが、
「それはもう、兄さんは軍隊無しでも戦争を勝ちましたから」
そしてその横にいるユズリハさんも、
「まあ相棒のわたしでも、さっぱり理解できないんだ。トーコに分かられてたまるか」
「のおぉぉぉぉ!!」
……トーコさんが頭を抱えたのは、ぼくのせいじゃないよね? きっと。
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