第155話 うにゅ子パート2

 目が覚めると酷い頭痛がした。


「んっ……」


 薄ぼんやりした視界の中で、なぜかスズハやユズリハさんが今にも泣きそうな顔をして叫んでいたけどよく聞こえない。

 記憶が混濁している。今は何時だろうか。

 やがて意識がはっきりしてくると、スズハがぼくの胸に飛び込んでくるのが同時だった。


「兄さんっ、兄さん兄さん兄さんっ!! うわあぁぁん!!」


 なぜか兄さんとしか言わないスズハを、よしよしと昔みたいにあやしていると。


「目を覚ましたか。キミが無事で本当になによりだ」

「ユズリハさん」

「わたしたちを脅かすのも大概にしてくれ。キミは一週間も寝ていたんだぞ?」

「えーっと……?」


 そう言われて、ようやく記憶の歯車が回転し出す。

 そうだ。

 ぼくは彷徨える白髪吸血鬼を斃して、それでうにゅ子を助けようと──


「まったくキミ、全力で魔力を使うにもほどがあるぞ。命を絞り尽くすような真似をして。そんなことだから、キミからは目を離せないんだ」


 なるほど。それで記憶も混濁していたわけだ。

 実際、どうやってうにゅ子に治癒魔法を使ったのかよく覚えていない。


「すみません。──それでうにゅ子は?」

「そこにいるだろう」


 ユズリハさんに言われて振り向くと、今まで寝ていた場所の隣に彷徨える白髪吸血鬼が寝息を立てていてぎょっとした。

 ああ、でももう吸血鬼じゃないのか。


「無事みたいですね、ホッとしました。ていうか幼女の姿じゃないんですね」

「あの姿はハイエルフにとっても、一種の緊急避難みたいなものらしいからな。こうして元の姿でいるのだし、大丈夫だとエルフの長老が言っていた」

「ところでどうして寝てるんでしょうね?」

「それは許してやってくれ。キミにどうしてもお礼が言いたいと、ついさっきまでずっと起きていたんだからな」


 それは悪いことをしたと思う。今から起こすのも悪いし寝かせておこう。


「そういえば長老は?」

「──それが精神に多大なダメージを負ってな。今も寝込んでいる」

「えっ!?」

「キミが彷徨える白髪吸血鬼にトドメを刺したとき、オリハルコンの剣が消えただろう。それが原因だ。まあ言うなれば、オリハルコンロス症候群だな」

「それはまあ、何というか……」

「あの様子だと、キミのオリハルコン鉱脈に押しかけるのは間違いないな」

「それは別にいいですけどね」


 長老が言うには、エルフにはオリハルコンが欠かせないみたいだし。

 ウチの鉱山しか宛てがないのなら、来ればいいじゃないかと思う。

 ぼくがそう言うと、ユズリハさんが目をぱちくりさせて。


「本当にいいのか? あの様子だと長老が来るという話じゃないぞ」

「え?」

「キミの領地に、エルフ軍団が押し寄せるぞ?」

「いいですよ」

「そうか。キミってやつは本当に大物というかなんというか……まあキミなら大丈夫か」


 ユズリハさんに、なぜか盛大に呆れられてしまった。なぜだ。


 ****


 起きてから一通り身体をチェックして帰ってきたら、うにゅ子はまだ寝たままだった。


「ていうかもう、うにゅ子はおかしいよね。別の呼び名を考えないと」

「はい兄さん。『真・うにゅ子』でどうでしょう?」

「キミキミ、わたしは『うにゅ子パート2』を推すぞ」

「……『うにゅ子★2号』がいいと思う。メイドとして」


 全員ネーミングセンスがアレだった。


「なんの参考にもならないとはこのことだよ!」

「うにゅ子と名付けた兄さんが言える筋合いではないと思いますが」

「それはそれ、これはこれ」


 まあそれは後で考えるとしても。


「……あれ? 髪が銀色になってる?」

「兄さんが倒した後にはそうなってました。彷徨える白髪吸血鬼の特徴なのでしょう」

「本当だ。カナデと同じ髪の色だね」

「……おのれうにゅ子。せっかくカナデとロリキャラかぶりが解消されたと思ったのに、今度は銀髪ツインテールかぶりとは……!」


 いや。ツインテールはカナデしかいないけど。


「そうだ兄さん。目の色も変わりましたよ」

「へえ。どんな色だろう」

「凄く綺麗でした。やはりあの目は吸血鬼の色だったんですね」


 そんな話をしたその時。


 ──今まで眠っていた美しい少女が、パチリと目を覚まして。

 ぼくの姿を、透き通る若草色の瞳で見つめて。

 まるで恥じらう乙女のように、ふわりと微笑んだのだった。






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9/27(水)発売の月刊コミックアライブ11月号にて、当作品のコミカライズがスタートします!

新連載の1話目はセンターカラーみたいです!

ぜひご覧くださいませ!

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