第152話 おぬしのバカみたいにクソデカい魔力も、オリハルコンならどんとこい
カンキン、カンキン、と金属を叩く音が響く。
ぼくがどこにいるかと言えば、エルフの里の鍛冶場。
何をしているかと言えば、エルフの長老に付きっきりで教わりながら、オリハルコンを叩いている。
なんでそんなことをしてるかと言えば、当然ながらうにゅ子の話が関係していた。
****
衝撃のエルフ全員大土下座事件があった翌日。
ようやく正気を取り戻した里のエルフたちは話し合い、一つの結論を出した。
まあぼくは長老から聞いただけだけど。
「──姫様は、彷徨える白髪吸血鬼を討伐することが敵わなかったのじゃな」
エルフの皆様は、里唯一のハイエルフを姫様と呼んでいたそうだ。さもありなん。
「失敗したということですか?」
「完全な失敗ではない。だが成功とは言い難いじゃろう、おぬしに聞いた話では」
長老は、ここ数千年の彷徨える白髪吸血鬼の動向を知らなかった。
なのでぼくとユズリハさんが教えると、難しい顔をしたのだった。
「姫様は──恐らくは、己の身体に彷徨える白髪吸血鬼を封印しようとしたのじゃろう。そしてそれは半分は成功した。だがもう半分は失敗したのじゃよ。それが、未だに人間を襲っている理由じゃろうな」
「? ですが、彷徨える白髪吸血鬼は普通に女の子の身体でしたよ? うにゅ子みたいな寸胴二等身の幼児体型じゃなくて」
「うにゅー!?」
「ハイエルフはの、幼児と大人の二つの形態が取れるんじゃよ」
「そうなんですか!?」
「だが普通は幼児形態なぞ取らん、思考も身体に引っ張られて幼児化するからの。なのに幼児化しなければならない理由は一つじゃろう」
「それは?」
「幼児化して、余った魔力を回さなければ彷徨える白髪吸血鬼を押さえつけられない……そういうことじゃ」
「……」
「なに、困った顔をするでない。道は単純じゃからな」
「それは?」
「おぬしが倒すんじゃよ。責任を取ってな」
──責任を取れと、真顔でエルフの長老に言われました。なんてこった。
****
そして話は現在に戻る。
トンテン、カンテン、とオリハルコンを叩き続けるのは、オリハルコンを鍛えるため。
もちろん普通の鍛え方じゃない。
「いいか! ハンマーを降ろす一振り一振りに、治癒魔法を全力で乗せるんじゃ!」
「はいっ!」
「宝玉は繊細じゃから聖女の魔力程度しか受け止められんが、オリハルコンは違うぞ! おぬしのバカみたいにクソデカい魔力も、オリハルコンならどんとこいじゃ!」
「はいっ!」
「姫様を救うのはおぬししかおらん! 頼む!」
……なんでも、このままだとうにゅ子は危険なのだという。
幼児化するほど魔力が足りていない状態となると、遠くない将来、彷徨える白髪吸血鬼を抑えることができなくなり、完全復活を許してしまうだろう。
そうなればどうなるか。
封印されていた状態ですら、出会った人間を皆殺しにしていた彷徨える白髪吸血鬼が、その本性を露わにすれば。
人類を皆殺しにしてなお、オリハルコンを未来永劫求め続ける──と。
そんなのは冗談じゃない。人類滅亡エンドまっしぐらだ。
ではどうすればいいか。答えは一つ。
うにゅ子が悪魔を抑えている間に、うにゅ子ごと真っ二つに斬るしかない──
「……長老」
「なんじゃ若者」
トンチン、カンチンとオリハルコンを叩きながら口を開く。
「うにゅ子は、本当に大丈夫なんでしょうか」
「大丈夫にするように、今こうして頑張ってるんじゃろ」
「それはそうですけど……」
長老曰く、ぼくとの戦いでうにゅ子もダメージを受けたものの、彷徨える白髪吸血鬼も相当ダメージを受けたはずだという。
つまり倒すには千載一遇のチャンス。
しかし普通にトドメを刺せば、あの悪魔の依代たるうにゅ子も死んでしまう。
そのための対策というのが、今ぼくたちが計画してる『治癒魔法でガッチガチに固めた武器で殴れば、うにゅ子は回復するし吸血鬼には追加ダメージでウィンウィンじゃね?』大作戦なのである。
大変分かりやすい。
吸血鬼は治癒魔法で逆にダメージを受ける属性を利用した賢い作戦と言えましょう。
──あれ、それって最初から治癒魔法とかぶっ放せばいいんじゃね? とか思ったけれど、それは違うんだとか。
それだと普通に吸血鬼も回復するんだそうな。
あくまでオリハルコンの神性とエルフの例のアレがうんたらかんたらで、封魔の宝珠が結界でエトセトラエトセトラなどと複雑な説明を受けたけどもうさっぱりです。
オリハルコンでぶっ叩かなきゃいけないことが分かったのでヨシ。
「つまりアレですね、オリハルコンを鍛造してからわざわざ剣を打つっていうのも悪魔に効果的なダメージを与えるわけですね」
「いや、そこはワシの趣味じゃ」
「ええええええ!?」
「いくらなんでも棒きれで討伐じゃカッコ悪いじゃろ?」
あっさりと断言されて絶句した。
確かにそうかもしれないけどさ、言い方ってもんがあると思うの!
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