第150話 エルフの里

 深い森を延々と進み、とんでもない高さの山を登ってたどり着いた先は、崖だった。


「……この崖、どこまで深いんですかね。ユズリハさんはどう思います?」

「いやキミ、これは軽く数千メートルはありそうだぞ……」

「ですが兄さん、光はこの崖の下に続いてますよ……?」

「ご主人様。下山路、探す……?」

「うにゅー」


 でもねえ。

 よくよく目を凝らしてみると、光が空中で途切れてるように見えるんだよ。

 というわけで、うにゅ子を抱いて宣言した。


「よし。飛び降りよう」

「うにゅっ!?」

「とりあえず、ぼくとうにゅ子が最初に降りるよ。ほら見てスズハ、あの光線が途中から無くなってるよね?」

「そうですね……」

「ぼくの予想だと、あの光が消えた場所に空間の裂け目か何かがあって、どこか異空間に繋がってるんじゃないかなあって。だから飛び降りたぼくの姿が途中で消えるようなら、スズハたちも降りてくるといいよ」

「それって失敗したら、兄さんはただ飛び降りただけになるのでは……?」

「う、うにゅ!? うにゅ!?」

「一人ならなんとかなるよ」


 ぼくの腕の中でうにゅ子が暴れてるけど、まあ心配いらない。

 丈夫な鉤爪とロープは持っているので、いざとなったら崖に投げて引っかける所存だ。

 それにうにゅ子が一緒でないと、光の伸びる先が分かりにくいしね。


「じゃあ行くよ、うにゅ子はしっかり宝玉を持っててね!」

「うにゅ──────!?」


 うにゅ子の長い悲鳴とともに、ぼくは崖から飛び降りた。


 ****


 予想通り、空間には裂け目があって異次元に繋がっていた。

 そこは今まで通ってきた深い森と一見同じように見えるけど、空気が違う。

 なんとなく、空間そのものが凜として清浄というか、玲瓏というか。


 ぼくたちが到着してからしばらく後に、スズハたちも追いついてきた。


「ちょ、ちょっと怖かったです、兄さん……!」


 スズハが涙目で抗議してきたので、よしよしと頭を撫でてあげる。

 ちなみに、うにゅ子はぐる目になって気絶していた。

 ユズリハさんが唸りながら、


「ううむ……ここがあの、エルフの里なのか……?」

「どうでしょうね?」

「雰囲気はバッチリだが……それに入口があそこだというなら、誰も見つけられなくても当然だと言えるしな……」

「まあそうですね」


 ぼくたちだって、宝玉の光がなければ見つけるなんて不可能だった。


「宝玉様々ですね」

「……いやキミ、普通は宝玉があったって絶対に無理だからな……?」


 ユズリハさんに真面目な顔で諭された。なんでだろう。


 ****


 少し歩くとすぐに集落が見つかった。

 そして住民らしき、えらく美人な女の人が。


「むっ。人間がやってくるとは七百年ぶり、いや八百年ぶりかの……?」

「すみません、ここは一体どこでしょうか」

「ここはな、エルフの里じゃよ」

「エルフの里!」


 やっぱりぼくの推測は当たっていた。ということは、目の前はエルフの人なわけで。


「やはりそうでしたか。ありがとうございます」

「ちょっと待たんか、おぬし」

「はい?」

「普通はもうちょっと、反応の仕方というものがあるんじゃないかの? 我エルフぞ? 人間どもの垂涎の的ぞ? 人間どもなぞ比較にならない凄まじい美貌の持ち主で、しかもおっぱいもケツもあり得ないレベルでバインバインぞ?」

「…………」


 ちらり、と女性陣に目線を送る。

 ぼくに釣られてスズハたちを見たエルフさんが、ぽんと手を打って一言。


「おおう。まさかエルフの同胞が一緒とはの」

「違いますから」


 残念ながらスズハもユズリハさんもカナデも、みんな人間なのです。

 ……人間だよね?

 ぼくが違うと説明すると、エルフさんが宇宙を感じた猫みたいな顔で呟いた。


「……ワシもこのかた数千年は生きておるが、まだまだ世界は不思議に満ちておるの」

「そうですか」

「自己紹介が遅れたの。ワシはこのエルフの里の長老じゃ」

「あ、これはご丁寧に」


 こちらも一人ずつ挨拶をする。

 ただしうにゅ子については、まだエルフとの関係が分からないので誤魔化しておいた。







****************

皆様のおかげで、4巻が10月20日に発売となります!

ぜひぜひよろしく!!


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