第146話 エルフの秘宝

 聖教国に滞在して二週間。

 聖女様の病気が完治したとの発表も無事されて、ぼくたちが留まる理由もなくなった。

 なので聖教国から出立すべく、挨拶のため謁見の間へ向かう。

 まさかオリハルコンの情報が入るまで滞在するわけにもいかないしね。


「ローエングリン辺境伯。今回は、本当にお世話になりましたわね」


 そう言って再度深々と頭を下げる聖女様を、慌てて止める。


「とんでもない、偶然ですよ。でも治ってよかったです」

「貸しを返すというわけではありませんけど、もしも辺境伯がドロッセルマイエル王国を捨てたくなったら、いつでも亡命してくださいまし。決して悪いようにはいたしません」

「む──っ!」


 トーコさんが思いっきり睨みつけるが、聖女様は涼しい顔だ。まあ姉妹だしね。


「それともう一つ、こちらを」

「えっ……宝玉?」


 聖女様が取り出したのは、ピカピカの宝玉。

 もちろんヒビなんて一つもない。

 邪蛇から出てきた宝玉だろうか。

 でもあれって、修復に数年から数十年かかると言っていたような──?


 驚くぼくたちの様子に、聖女様がふふふんとドヤ顔を決めて。


「こういった古代の宝玉は、聖属性の魔力を注ぐことで修復されるのですわ。そして強い聖魔力を注げる人間は限られますから、数年から数十年掛かると言ったのです。ですが、わたくしの体調と魔力が万全ならば、このように僅か数日で修復できます」

「凄いですね!」


 さすが聖女様、たいしたもんだと感心していると。


「ってことはお姉ちゃん、スズハ兄ならすぐに修復できたって事?」

「恐らく無理ですわね。辺境伯の治癒魔法は余りに強力すぎて、繊細に制御できなければ逆に宝玉を粉砕してしまいますわ」

「そっかー。スズハ兄が修復できれば、いい商売ができると思ったのになー。まあいいや。それでお姉ちゃん、その宝玉っていったい何なわけ?」

「これはエルフの秘宝ですわね。結界を張る効力がありそうです」


 そういえば、サクラギ公爵家の伝説では邪蛇退治にエルフが協力したと言ってたっけ。


「もちろん一般人が持ってもいいものですが、本来はエルフの魔力を、この宝玉に注いで使う物ですわね」

「でもお姉ちゃん、エルフなんてとっくに滅びてるんだけど?」

「エルフ自体は滅びても、エルフの魔力まで完全に消えて無くなるわけじゃありませんわ。血の混じりがあれば、薄くなっても血は残るものですから」

「なるほどねー」

「だからこの宝玉を使うならば、できるだけエルフの血が濃い人間が魔力を注いだ方が、より効力は高まるでしょう」


 というわけで調べてみることに。といってもエルフの血の濃さの調べ方は簡単。

 一人ずつ宝玉に、一定量の魔力を注いでみるだけ。

 順番にやってみるとユズリハさんが魔力を注いた時だけ宝玉がぼんやり光ったものの、それ以上の反応は無い。


 しかし、事件は最後に起こった。


「そうだ、うにゅ子もやってもらおう。ねえ起きて」

「うにゅー?」


 カナデの頭の上で完全におねむだったうにゅ子を起こして、調査に参加してもらう。

 そして。

 うにゅ子が宝玉に、少量の魔力を注ぐと。


「う、うにゅ────っ!?」


 うにゅ子の持った宝玉が、淡い緑色の光が謁見室の中に溢れ出て。

 そして宝玉から、あたかもエルフへの道標のように、一筋の光が放たれたのだった──

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