第141話 聖教国
山や川をいくつも超えて、やって来ました聖教国。
トーコさんから事前に都市国家のようなものだと聞いていたけど、なんか凄かった。
とにかく警備が厳重で、都市の中に入るのも一苦労なのだ。
ぼくたちはトーコさんの女王パワーで特別待遇だったので待たずに快適だったけれど、巡礼などで平民が入ろうとすると一日待ちは当たり前らしい。
しかもこの国、大聖堂のある中心区域には基本的に、一部の人間以外は立入禁止なのだ。
その一部の人間とは基本的に司教以上の高位聖職者と、聖教国が認めた国の王族のみ。つまりぼくは当然アウトだとしても、公爵家直系長姫のユズリハさんどころか、その父の公爵家当主ですらアウトなのだから恐れ入る。
つまりぼくたち全員、トーコさんの随員という形でしか入ることができない。
「どうだキミ、いけ好かない国だろう?」
「あはは……ユズリハさんなら、力尽くで入れそうですけどね」
「キミが一緒にしようと言うならやぶさかではない」
「そんなこと言いませんよ!?」
そんな会話をしながら中心区域へ入る。
ここまで極端に出入りを制限するだけあって、中心区域はどこも見事なものだった。
絵画でしか出てこないような豪奢な大聖堂が、いくつも立ち並んでいる感じ。
その中心にあるひときわ煌びやかな大聖堂で、ぼくたちは聖女に謁見することになった。
「トーコさん、聖教国のトップは聖女様なんですよね?」
「表向きはねー。実際には、教皇だの枢機卿だの大司教だのが独自の権力を持っていて、なかなか厳しいみたいだよ?」
「しょっぱい話ですね……」
「少なくとも聖女はウチの国と懇意だから。他の連中はともかく」
それが理由なのかどうか、トーコさんと聖女様の会見に、ぼくとユズリハさんも一緒についていくことになった。
さすがにスズハたちは別室で待機だ。
****
完全にお上りさん状態で謁見室へ。
そして聖女様が出てきた時、ぼくはもの凄くびっくりした。
だって謁見室で見た聖女様が、まんまトーコさんだったのだ。
もう完全に白いドレスを着て、ティアラを被ったトーコさん。
抜群すぎるスタイルも、当然のようにそのまんま。
「え……トーコさんが二人?」
「へへー、驚いたでしょ。聖教国の聖女はね、ボクのお姉ちゃんなんだよ」
「そういうことですわ。初めまして、ローエングリン辺境伯」
「あ、はい! こちらこそ」
慌てて挨拶を返して、聖女様のお話を伺うと。
なんでもこの聖女様、生まれつきの魔力がトーコさん以上に強かったのだとか。
なので次代の聖女候補として、小さい頃に聖教国へと送り出されて。
いろいろあった末に、見事聖女となったということらしい。
「そうなんですか。凄いですね!」
ぼくが率直な感想を述べると、トーコさんそっくりの聖女様は優雅に首を横に振り。
「いいえ、ローエングリン辺境伯の方がよほど凄いですわよ」
「いえいえそんな」
「謙遜ではありませんわよ? わたくし、他国の情報などはあまり入ってきませんが──それでも貴方が、オーガの群れを殲滅してこの大陸を救ったこと、クーデターを阻止してトーコの命を救ったことは聞こえております」
「偶然ですよ」
「たとえ偶然にせよ、両方ともすぐ近くにいたユズリハにすら不可能だったことは事実。かの
「い、いえ! オーガの群れの時にはユズリハさんも一緒に倒しまくってくれましたし、クーデターの時も陽動で大活躍で!」
慌ててフォローするぼくに、ユズリハさんが渋い顔で耳打ちした。
「……聞いたかキミ。この聖女は、トーコと同じで口が悪いんだ。そこまでは一緒だが、姉の方は余計にタチが悪い」
「ユズリハ、聞こえてますわよ?」
「……え、えっと、仲が良いことはよく分かりました」
この聖女様、見た目はホワイトトーコさんなのに、中身はブラックトーコさんだった。なんてこった。
そしてトーコさんは、そんな聖女様の様子に怒るでもなく。
「随分久しぶりだけど、お姉ちゃんは相変わらず元気そうだね。安心したよ」
「当然ですわ。まだまだ病気なんかに負けてらんねーですわよ」
……聖女様は病気なのだろうか?
疑問に思ったぼくに、トーコさんが教えてくれた。
「あのね、聖女だけがごく稀になるって言われる特殊な病気があるんだけど。その病気にお姉ちゃんも掛かっちゃったってわけ」
「まあ仕方ないですわね。聖女の宿命ですし」
聖女様があっけらかんとしていたので、そこまで深刻なものと思わなかった。
……その時は。
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