第139話 トーコの太ももはいつでもパンパンに張り詰めているがな
公爵家の本邸を辞し、トーコさんと聖教国へと向かう。
それはいいとして、トーコさんはここまで一緒に来た護衛部隊を王都に返してしまった。
それで大丈夫なのか聞いてみると、
「だってスズハ兄もユズリハも一緒なんだから、ボクの護衛部隊なんていたってそんなの足手まといでしかないでしょ?」
とのことだった。
ぼくが一緒だからというのは分からないけど、ユズリハさんがいれば百人力というのは納得しかない。
それに護衛部隊と一緒に馬車も返してしまえば、街道以外を進むことだって容易になる。聖教国へ街道沿いに進むとかなり遠回りになるので、旅程短縮にも大いに貢献するのだ。
ぼくと違ってトーコさんは女王なのだから、王都に帰るのが遅くなればなるだけどんどん仕事も溜まっていくだろうしね。
ただし、馬車を返したことによる問題点が一つだけ。
「ねえねえスズハ兄、肩車してよー」
「なんですかそれ」
街道を逸れて森の中へと入ったあたりで、トーコさんが謎のお願いをしてきた。
「いやだってさあ。馬車は返しちゃったしボクはスズハ兄たちと違って魔導師だからね、ずっと歩いてると脚が痛くなるんだよ。ホラ見て、もう脚がパンパンだから。ユズリハもスズハもそう思うでしょ?」
「トーコの太ももはいつでもパンパンに張り詰めているがな」
「ていうか兄さん、トーコさんの太ももって並の騎士よりもぶっとくないですか? これ絶対普通に歩けますよね?」
「うるさいうるさい! ボクは女王なの、貧弱な魔導師なの! 文系なの!」
「はいはい、いいですよ」
真実かどうかはともかく、トーコさんの言うことにも一理ある。
というわけで、トーコさんをぼくの肩の上に乗せて進んでいく。
女王とはとても思えない格好だなんて感想を抱いたのは秘密だ。
****
トーコさんが加わっても、道中は何か変わったこともなく。
ときおり虎や熊が出てきては、スズハに一撃で蹴り殺され。
ときおり大きな鷹を見つけては、ユズリハさんが小石を投げて撃ち落とし。
ときおりヘビを見つけては、カナデに滅多打ちにされていた。
みんなどことなく張り切っている理由は、トーコさんに活躍を見て欲しいからかな?
女王の御前ではあるわけだし、ぼくに見てもらっても良いことなんてないし。
やることが無いぼくは、トーコさんと話しながら進む。
「──つまり聖教国へは、トーコさんとしては行きたくなかったと?」
「そうだよ。呼びつけた理由だってあからさまだしねー、無視してやろうかと思ったけど。さすがにそれは拙いからさ」
「理由って?」
「そりゃ当然スズハ兄だよ」
「えええっ、ぼくですか!?」
いきなり名前を出されて焦る。
なにしろぼくは、聖教国に目を付けられるような悪いことは何もしていない……はず。
ましてや女王のトーコさんが呼び出されるようなことは──
「いやいや、キミが悪いということではないぞ?」
「ユズリハさん」
「これは推測だが、キミの活躍ぶりがあまりにも派手だったから、聖教国の連中も興味を引かれたんだろう。キミが悪いことをしたわけじゃない」
「もちろんそうだよ。今さらスズハ兄に目を付けてるとか、ボクに言わせればちょーっと遅すぎるけどね!」
「まあそう言ってやるな。トーコを呼びつけられる権力持ちにしては、まだ反応が早い」
「んなことないって、オリハルコンまで配ったらアホでも気づくでしょ──ああスズハ兄、一つ言い忘れてたことがあったよ」
「なんでしょう」
「聖教国って名目上のトップは聖女なんだけどね、見たらビックリするかも」
「え?」
「まあ普通は女王が挨拶に行くくらいだと、司教が適当に応対するから聖女なんて絶対に出てこないんだけどねー。でもスズハ兄を連れて行ったら、絶対に面会させろって言うに決まってるし。それにオリハルコンとか宝玉の修復の件もあるから、恐らくだけど聖女が出てくると思う。ねえユズリハ?」
「あの聖女殿か。まあ驚くに違いないな」
「えっと、一体どんな人が……?」
「まあまあ、それは着いてからのお楽しみって事で」
そう言われると、これ以上聞くこともできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます