第138話 おっぱいの大きさがスズハに負けた(トーコ視点)
その後も二人が話していると、控えめなノックの音がしてユズリハが首をかしげた。
「誰だ?」
「ああ、ボクが呼んだんだよ。入っちゃって」
「……ん」
部屋に入ったのは、スズハの兄のメイドであるカナデだった。一人だ。
「スズハ兄には話した?」
「話してない。メイドのことで、ご主人様に迷惑はかけられない」
「そう」
スズハの兄を通さず直接カナデと話したかったのは、もしもスズハの兄の前で話せば、遠慮しかねないだろう内容だったから。
「単刀直入に言うけど、王家のメイドにならない?」
「……は?」
「おいトーコ、スズハくんの兄上のメイドを引き抜くつもりか。感心しないぞ?」
「そんなんじゃないわよ!?」
今回、トーコは「カナデの将来について話がしたい。スズハ兄が一緒でもいいわよ」とカナデに声をかけておいた。
スズハの兄に声をかけなかったのは、まず本人の意向を聞きたかったから。
スズハに先に聞いて断られたらこっ恥ずかしい、からではない。断じて。
「スズハ兄に聞いたんだけど、カナデってお城で唯一のメイドなんでしょ?」
「……そう」
「スズハ兄、カナデのことすごく褒めてた。なんでも完璧なスーパーメイドさんだって。とくに掃除が得意って聞いたけど?」
「……それほどでもない。でもカナデはそうじが得意」
無表情を続けるカナデだが、鼻の頭がぷくーと膨らんでいるのを見れば内心は滅茶苦茶喜んでいるのが一目瞭然で。
「でもさ、スズハ兄も心配してたわけ。カナデには仕事仲間も、年の近い友達もいないし、良い方法はないかなって」
「……問題ない。それにメイドは闇を生きるもの。メイド道とは死ぬことと見つけたり」
「どこのメイドだそれは!?」
ユズリハが思わずツッコミを入れたが、トーコももちろん同じ気持ちだ。
「それでボクも考えたわけよ。カナデをウチに呼んだらどうかって」
トーコの計画は単純明快。
王家のメイドとしてカナデを引き取り、代わりに王家のメイドを何人か派遣する。
王家のメイド部隊は千名を超える大部隊で、カナデと同じ年頃の子供も多い。
スズハの兄の話を聞く限り、メイドとしての能力は疑いようもなし。
それにカナデは情報収集も得意らしいけど、王家には諜報部隊もあるから適性があればそちらで学んでみてもいいだろう。
そうして成人するまでの数年間を王家で働いて、それからまた戻ってもいいのでは──
そんなトーコの話を聞いたカナデが、ふんと鼻を鳴らして一言。
「うぬぼれるなよ。こむすめ」
「コムスメはあんたでしょうがっっ!?」
「カナデのほんとうのご主人様は、今のご主人様のみ。こむすめなど比較にもならぬわ。それにカナデの情報収集はかんぺき、だから教わる必要もない」
「ほう。ではわたしが確かめてやろう、今のトーコの悩みは?」
「おっぱいの大きさがスズハに負けた」
「ううう、うっさいうっさい!! そんなこと気にしてないわよ!?」
誰にも言わないと心に秘めたはずの秘密を思いっきり暴露され、全力で否定するも。
「気にするなトーコ。そんなことはどうでもいいだろう、わたしはまだ勝っているが」
「きにするなトーコ。カナデは成長期だから、まだ大きくなるけど」
「ボクだってまだ成長期だっつーの!!」
そうしてなし崩しに王女、公爵令嬢、メイドの女三人キャットファイトが開催された。
****
そして、そのすぐ上の階では。
「──兄さん、久しぶりに一緒に寝ませんか?」
「どうしたのさスズハ? そんなこと言うなんて珍しい」
「今夜は絶好のチャンス……いえ、怖い夢を見そうなので。ダメでしょうか……?」
「仕方ないなあ」
そんな風に、ちゃっかり兄に添い寝して貰った妹がいたことを。
翌朝になって知ることになり、地団駄を踏んだ三人娘がいたとかいなかったとか。
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