第136話 ぼくのせいで、知らないところでクーデターが起きていた。しかも三つも。
トーコさんが到着してすぐ、なぜか速攻で呼び出された。
「ちょっとスズハ兄、一体どういうことかなあ!?」
「……というと?」
「ウチと国交の無い国が三つ、いきなり帰属を求めてきたんですけど!」
「へっ?」
よく分からないのでお話を伺う。
するとなんでも、トーコさんの頭を悩ませていた小国が、三つほどあったのだという。
それらの国は領土こそ小さいものの、有力な部族がいたり貴重な特産品があるために、歴代国王が幾度となく近づこうとしたものの、毎回拒絶される曰く付きの国なのだとか。
どうやらかなり閉鎖的らしい。
当然トーコさんも女王就任後に使者を送ったものの、その返事はけんもほろろ。
ところがである。
その三国が最近になって、突然ドロッセルマイエル王国への帰属を打診してきたらしい。
「えっと、おめでとうございます?」
「そうだけどっ! そうだけど違うでしょーっ!?」
「いやそう言われましても」
「そりゃボクの策略が上手く行ったとか、なにか大きな事件があったなら分かるけど! けど今回は何も無いんだよ! 何の前触れもなく、いきなり言ってきたってわけなの! そんなのスズハ兄が、また何かやらかしたとしか考えられないよね!?」
えらい言われようだった。
それでも念のため、その三つの国名を聞いてみると。
「あれ? どこかで聞き覚えが」
「だってこれ、みんなボクがスズハ兄に、ここで情報を集めて来ればって言った国だし」
「……トーコさん、そんな国にぼくを行かせようとしてたんですか?」
「今さらスズハ兄を、普通の国に行かせようとするわけないじゃん」
まあ国交の無い国とは言ってたけどね。
それはともあれ、トーコさんの誤解を解いておこう。
「言っておきますけどぼく、何もしてませんよ?」
「……本当に?」
「だってぼく、その国に行ってませんし。ああそうだ」
ぼくが行かない代わりに、メイドのカナデに情報収集を頼んでたんだった。
ぼくは後ろに控えていたカナデに声をかける。
「ねえカナデ、なにか知ってる?」
「……ごめんなさい。ご主人様の欲しい情報はまだ集まってない。収集の前段階」
「そうなんだ」
「三つの国とも閉鎖的なことで、メイドたちに有名。だからまずはクーデターを起こして上層部を王国帰属派に入れ替えることで、情報を収集しやすくする」
「間違いなくそれが原因だよねえ!?」
なんということでしょう。
ぼくが情報収拾を頼んだのが原因となって。
つまりはぼくのせいで、知らないところでクーデターが起きていたということか。
しかも三つも。
「すみませんトーコさん。どうやらぼくが発端だったようで」
「う、うん、それはいいんだけど……そのメイドが独断でやったのかな?」
「みたいです。もちろんメイドの責任はぼくの責任ということで」
「ううん、ボクとしては滅茶苦茶助かったから逆にありがとうだけど……まさか本当に、スズハ兄の仕業じゃなかったなんて……! でもスズハ兄のメイドの仕業なら、やっぱりスズハ兄がやらかしたのと同じなのかな……?」
トーコさんが、なんだか失礼なことで悩んでいた。
ぼくが何事かやらかすことが前提なのはどうかと思う。
****
その後はトーコさんと情報交換し、オリハルコンについて分かったことを伝える。
ぼくが公爵領で盗賊や魔獣なんかを退治していたことを、トーコさんはもう知っていた。さすが女王だ耳が早い。
そしてトーコさんは聞いていた通り、聖教国に女王就任の挨拶へ向かうとのこと。
「ということはアレですか? 聖教国への山のような贈り物を、何十台もの馬車で一緒に運んで行くみたいな」
「うんにゃ。そんなもの一緒に運んでたら、いつ向こうに着けるか分からないからねー。だから贈り物は別で運んで、ボクと一緒なのは護衛だけ」
「なるほどです」
そんな話をしながら、ぼくはタイミングを計りつつ割れた宝玉を取り出して。
「トーコさん。これ見てください」
「んっ……なにこれ?」
「ぼくたちが温泉に浸かってたら邪蛇が出てきて、仕留めて捌いたら中からこれが」
「どういうことよ!?」
ちゃんと説明すると、トーコさんは相当驚いたようで口をあんぐり開けていた。
「サクラギ初代公爵のヨルムンガンド伝説……本当だったんだ……」
「まあ強さは全然だったんですけどね」
「うっさいわね。スズハ兄の言う強さはまるで信用ならないのよ」
なにそれひどい。
ショックを受けるぼくを尻目にトーコさんは割れた宝玉を睨みつけるように観察したり、日光に当てて透かしてみたり、なにやら呪文を唱えたりしていたが、やがて諦めたように大きくバンザイをした。
「無理。魔力が抜けちゃってよく分からない。とりあえず修復しないとダメだわ」
「修復ってどうやるんですか?」
「普通の宝玉ならともかく、恐らくだけどこの宝玉は魔道具としても最高ランクだからね。いくらボクが魔導師として優秀でも、これは専門の魔道具術士でないと修復不可能だよ。でもそんなの国内には──そうだ!」
トーコさんがキラキラとした表情をぼくに向けて、
「ねえ、スズハ兄もボクと一緒に聖教国へ行かない?」
「聖教国へ?」
「そうだよ! こんな高度な宝玉を修復できる魔道具術士なんてウチの国にはいないけど、聖教国なら間違いなくいるし! あとスズハ兄が一緒に行ってくれれば、この先でかかる護衛費用もまるまる浮くし! ねえスズハ兄、どうかな?」
「えっと、ぼくは別にいいですけど……?」
どうしたものかと、スズハたちに顔を向けると。
「いいんじゃないですか兄さん。ここで公爵家の私兵の訓練をしているより有意義かと」
「カナデも賛成。聖教国に潜入したままのメイドと情報交換もできる」
「うにゅー!」
なんだかみんな賛成みたいだ。
なお一人だけ、ユズリハさんは。
「わ、わたしは別に、スズハくんの兄上はこのままウチにいたっていいと思うんだが……そうすれば、わたしと一緒の訓練も続けられるし……」
「ふーん──ねえユズリハ、親友のボクのいない間にスズハ兄とずいぶんお楽しみだって聞いてるよ? 自分たちだけスズハ兄と混浴温泉に入ったり、私兵の訓練を手伝わせたり、他にもいろいろ──」
「ぐっ」
「たまにはボクのお願いくらい、聞いてくれたっていいんじゃない?」
「……いいかキミ。わたしは断腸の思いで、断腸の思いでトーコに賛同しよう……!」
いやそんな苦しそうに言わなくても、と思ったぼくは間違ってないと思う。
何はともあれ。
ぼくたちはトーコさんと一緒に、聖教国へと向かうことが決定したのだった。
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