13章 聖教国
第134話 ぼくまた何かしちゃいましたかPart2
サクラギ公爵本邸に戻って邪蛇のことを報告すると、家宰さんがすごく驚いていた。
「す、すると、あの伝説のヨルムンガンドを倒したと──!?」
「あ、そういう名前なんですか」
家宰さん曰く、なんでも伝説が荒唐無稽すぎるせいで実話だと思われていなかったとか。
信頼できる目撃証言なんかも無かったらしい。
「それでお怪我の方は」
「なんともありませんでした。伝説と違って、邪蛇が凄く弱かったので」
「──お嬢様?」
「スズハくんの兄上の言うとおり、誰も怪我一つしていないことは間違いない。もっともあの大蛇が強かったどうかは、今となってはさっぱり分からん」
「と申しますと」
「スズハくんの兄上が、パンチ一発で頭を吹き飛ばしてしまったからな」
「……失礼ですが、そんなことが本当に……?」
「できるんだよ。わたしの相棒はな」
ユズリハさんの横で、スズハもうんうんと頷いている。
ていうかそんなことができる時点で、邪蛇が弱体化している証拠だと思うんだけど?
「あと、邪蛇の腹の中からこんなものが」
ぼくが割れた宝玉を渡すと、家宰さんがまじまじと観察して。
「これは……ヨルムンガンドの封印に使われていた宝玉でしょうか?」
「かもしれないと思うんですが」
「そのような宝玉があるという記述は、伝説には無かったと記憶しております。とはいえ初代当主がヨルムンガンドを封印した際、具体的にどうしたのかについては詳細な記述がそもそも残っていないのですよ」
「千年も前の話ですからね」
まあ封印に使った宝玉にせよ、偶然邪蛇の腹から出てきた品物にせよ、公爵家に伝わる邪蛇伝説由来のアイテムには違いない。
というわけで家宰さんに渡そうとすると、なぜか全力で拒否された。
「こちらは是非、ローエングリン辺境伯がお持ちください」
「ですが、初代公爵様由来の逸品かもしれませんよ?」
「だからこそお持ちいただきたいのです──邪蛇のみならず、公爵領の魔獣をことごとく討伐していただいた報酬は当然ご用意させていただきますが、これが価値ある討伐品ならその所有権は討伐者のものですからな」
「ですが」
「魔獣の報酬は、それを倒した英雄が手に入れるべきでしょう」
ユズリハさんを見ると、こちらも大きく頷いて。
「そういうことだキミ。魔獣の肉と同じだ」
「──そういうことでしたら」
魔獣の肉のことを言われると弱い。
宝玉は別にいらないけれど、ならば肉の代金をいただくと言われては堪らないからね。
というわけで、ここは素直に受け取っておく。
いざとなったら返せばいいし。
でもこれどうしようと思っていると、家宰さんからアドバイスが。
「そちらの宝玉は、トーコ女王に鑑定していただいてはいかがでしょうか?」
「トーコさんですか?」
「宝玉のような魔道具については、やはり魔導師が一番詳しいものです。そして我が国で一番優秀な魔導師といえば、なんといってもトーコ女王でしょう」
「なるほど」
トーコさんに情報収集の報告がてら、宝玉を見てもらうのもいいかもしれない。
「では近いうちに王都へ向かおうと思います」
「いえ、その必要はございません」
「というと?」
「皆様が外出されている最中に、トーコ女王がこちらの本邸へご訪問なさるとの先触れをいただきました。数日後には到着するとのことです」
心当たりがないようで、ユズリハさんが首を捻った。
「トーコがここに? 要件はなんだ?」
「聖教国へ女王就任のご挨拶に伺う途中で、こちらに寄られるとのことです」
「聖教国だって? 王が交代したら挨拶するのはスジだが──ははあ、そういうことか」
ぼくも聞いたことがある。
聖教国はこの大陸の宗教の総本山であり、ゆえに王様が交代したら挨拶に行くのだと。
ただし最近では、その慣例も
それに、なんか今さら行くのもなあという気もする。
スズハも同じ疑問を持ったようで、
「ですがユズリハさん。トーコ女王が就任してから、もう半年以上経ちますよ? しかも兄さんの大活躍で領地が広がって、国の情勢が落ち着いたとはとても言い難い状況です。どうして今なんでしょうか?」
「わたしも一瞬そう思ったが、トーコがこのタイミングで自分から訪問するはずが無い。恐らくはスズハくんの兄上が原因だろうな」
「ぼくですか!?」
「少し考えてみるといい。聖教国にとっては、クーデターで王が替わろうがどうしようが、その次の王が敵対しなければいいんだ、だから放っておいた。だがそこに、スズハくんの兄上が出てきた」
「えっと、ぼくまた何かしちゃいましたか?」
「しまくりまくっただろうが。オリハルコンの件も、百万の敵兵を一人で叩き潰した件も、聖教国の興味を引くに余りある。かといってプライドが邪魔をして自分からは動けない。そこで挨拶の慣習にかこつけて、トーコを呼びつけたのさ」
「ひょっとして、ぼくがトーコさんにご迷惑を……?」
「そう言えなくもないが、キミはトーコに軽くその百万倍はメリットを与えてるからな。これは散々キミをこき使ったトーコが払う、いわば税金みたいなものだ。というわけで、キミが気にすることは一つもないさ」
「ユズリハさんの言うとおりです兄さん。むしろトーコさんはもっと税金を払うべきです。具体的には兄さんと妹のわたしに毎食カツカレーを提供するとか」
「スズハはなにを言ってるのかな!?」
色気より食い気とはこのことか。
まだまだぼくの妹はお子様のようだ。
身体だけなら滅茶苦茶立派に育ったんだけどなあ。
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