第128話 お背中ながしますか
サクラギ公爵家の本邸に戻り報告すると、家宰さんにえらく驚かれた。
「ま、まさか……! 本当に、一ヶ月で全て終わらせられるとは……!」
「えっと……やっぱり全部討伐したら拙かったですかね……?」
「決してそんなことはありませんぞ!?」
魔獣のお肉を独り占めして……なんて怒ってるかもと思ったけれど、ひとまずは討伐の労をねぎらってくれた。よかった。
そしてユズリハさんはと言うと。
「あ、会いたかった……! わたしの相棒っ……!」
「どうしたんですか、なんだかボロボロですよ!?」
「あの鬼畜家宰に当主代行の仕事をしろと言われ、慣れない書類仕事を大量に……その上、こんな長い時間キミに会わないことなんて無かったから禁断症状が出てきてどうにも……うううっ」
「た、大変でしたね?」
一部よく分からない部分もあったけど、ユズリハさんも大変だったみたいだ。
そして朗報も。
「ご主人様。メイドの谷のメイドが、いまの最新情報を持ってきてくれてた」
「そうだキミ。我が公爵家で集めた情報も、わたしの方でまとめておいたぞ」
「ありがとうございます!」
そうして、二つの報告書をみんなで読み込んで分かったことが三つ。
一つ、オリハルコンは上質なミスリルに超高純度魔力が過剰融合することで生成される。
一つ、オリハルコンは薬効があり、万能特効薬であるエリクサーの材料にもなる。
一つ、オリハルコンは破魔の効果がある。
「うーん……なんだか分かったような、具体的にはなにも進展してないような……」
「ですが兄さん、オリハルコンの鉱脈ができた理由は分かりましたね」
「ユズリハくんの言うとおりだな。スズハくんの兄上の魔力と彷徨える白髪吸血鬼の魔力、光と闇が両方合わさり最強になった超魔力が、すぐ横のミスリル鉱脈と融合したのだろう。まったく、スズハくんの兄上以外には再現不可能な精錬法だが」
「ぼくだって、もう一度やれと言われても無理ですからね?」
何はともあれ、少しでも情報が集まったのは喜ばしい。
今回は彷徨える白髪吸血鬼の情報は無かったけれど、こちらは今後に期待しよう。
****
そしてぼくらは現在、どこに向かっているのかというと。
なんと温泉である。
なんでそんな話になったかというと事の発端は、ユズリハさんがいきなりぼくに対して頭を下げてきたことで。
「いや、申し訳ない。ウチの家宰が準備不足で……」
なんでも、ぼくが八十八箇所をこんな短時間で討伐してくると思わなかったとのことで、報酬を用意するのに時間がかかっているとのこと。
「いや別に、報酬なんていりませんよ?」
「なにを言う。我が公爵家の家宰が討伐を依頼し、キミはこれ以上ない形で完遂したんだ。これで報酬を払わなかったら、我が公爵家のメンツが丸潰れになってしまう」
「本当にいいのに……」
ていうか、魔獣のお肉をあれだけ食べまくったうえに報酬まで貰うとかどうなんだろう。罪の意識が凄い。
まあそれはそれとして、待っている間の時間をどうしようかということになり。
「兄さん、温泉ですよ! わたしは温泉に入りに公爵領まで来たんです!」
「わたしも大賛成だ。本邸にいると、セバスチャンが仕事を押しつけてくるからな」
「カナデも大賛成。……温泉といえばお背中ながしますか、お背中ながしますかといえばメイド。これ、ゆけむりの真理」
「うにゅー!」
というわけで、温泉へ行くことになったのだった。
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