第127話 おとり作戦

 翌日、ぼくたちはさっそく魔獣討伐にでかけた。


 というのも、このままいると毎日がお鮨パレードや、そうでなくてもマグロ大感謝祭、肉の極み選手権みたいに、凄い食べ物が怒濤ごとく押し寄せてくる危険性を感じたのだ。

 そんなことになったら、ぼくたちは二度とサクラギ公爵本邸から出られない身体になる。

 公爵家の財力を舐めてはいけない。


 そしてもう一つの理由は、魔獣が誰かに討伐される前に討伐しようという話。

 これもまた、美味しい魔獣を世間様が放っておくはずないと考えれば当然である。


 というわけでぼくたちは、ダッシュで魔物たちを倒しに行く計画を立てたのだった。

 もちろんスズハたち三人もやる気十分だ。


「行きましょう兄さん! 公爵領の平和のために! ……じゅるり」

「ご主人様のてりょうり、魔獣食材ばーじょん! ……じゅるり」

「うにゅー!(じゅるり)」


 ──ちなみに、ユズリハさんも一緒に来ようとしていたけれど、家宰さんにあっさりと却下されていた。


「お嬢様はダメです」

「なぜだッ!?」

「よく考えたら最初にお嬢様が教えてくだされば、こんなことにならなかったわけです。というわけでお嬢様には穴を埋めるべく、邸内の溜まった仕事を手伝っていただきます。温泉に行きたかったら、情報が揃うまでしっかり働いていただきたいですな」

「しまった、そこに気づかれたか!?」


 なんて、家宰さんとよく分からない言い合いをしていた。

 仲が良さそうだなあ。

 それに公爵令嬢を魔獣討伐に駆り出すのも、考えてみればおかしな話だしね。


 ****


 最初の討伐地点は公爵本邸にほど近い岩山だった。

 地図の場所を目がけて断崖絶壁の岩肌を駆け上がると、その上にちゃんとコカトリスが。

 地図が正確でとても助かる。

 岩の影から見ていると、コカトリスは一匹。こちらには気づいていない。

 コカトリスの外見は言うなれば、巨大でブサイクなニワトリといった感じ。


「兄さん、わたしが狩ってもいいでしょうか?」

「うーん。でもコカトリスはピリピリするしなあ」

「……ご主人様……それは石化毒じゃ……?」


 カナデのツッコミで初めて知った。

 コカトリスと目を合わせると、なんでも身体が石化するらしい。

 それに吐く息も猛毒で石化作用があるのだとか。

 どおりでコカトリスを狩ったとき、ピリピリすると思ったんだ。


「なるほど、さすがは兄さんです。強靱な肉体と魔力さえあれば、コカトリスの石化など恐るるに足らずということですね!」

「……コカトリスの毒は、そんなちゃちなものじゃない……はず……?」

「まあそういうことなら、念のため目線と毒は気をつけようか。今回はぼくがやるから、スズハは良く見て次からやるといいよ」

「はい!」


 というわけでコカトリスを狩る。

 とはいえ所詮はニワトリの仲間。どうということはない。

 できるだけ素早く近づいて、手刀で首を落としてはい終わり。


「終わったよ、みんな」

「す、凄いです兄さん! 手刀がまったく見えませんでした!」

「……手刀のはずなのに、斬り口がまるで細胞を押しつぶさない圧倒的滑らかさ……! カナデのナイフでもこんなの絶対むり……! 圧倒的敗北……!」

「カナデの視点は随分マニアックだね」

「うにゅー!」

「うにゅ子も褒めてくれるの? ありがとう」


 というわけで、コカトリスはさっそく捌いて焼き鳥にした。

 滅茶苦茶美味しかった。

 あと、カナデがコカトリスの毒が欲しいと言ったので渡しておいた。

 殺虫剤にでも使うのだろう。さすがはデキるメイドさんだ。


 ****


 次の地点は、盗賊の拠点だった。


「えっと兄さん、盗賊は食べられませんよ?」

「分かってるよ!?」


 まさか魔獣だけ狩って盗賊は放っておきましたじゃ、公爵家の家宰さんに怒られるよ。

 地図の印は、深い森の一部分を囲っていた。

 このあたりに盗賊がいるということだ。


「兄さん、魔獣と違って盗賊は逃げますから厄介ですね」

「そう? ぼくは魔獣にもよく逃げられるけど」

「それは兄さんだけかと」


 そんな話をしながら、さてどうやって盗賊の拠点を探そうか考えていると。


「いい案がある」

「カナデ?」

「おとり作戦」

「どうやるのそれ?」

「スズハがおっぱい丸出しで森をねりあるく。いっぱつで釣れる」

「イヤですよそんなの!?」


 スズハが首を横に振って拒絶した。まあそうだよね。


「気にしなくていい。どうせ盗賊はみなごろし」

「ならカナデがやればいいじゃないですか」

「それもそう。わかった」

「いやいやいや!?」


 カナデがメイド服の胸元をたゆんっとずらしたところでさすがに止める。


「でも、おとり作戦はアリかも。スズハなら盗賊に攫われても大丈夫だよね?」

「盗賊ごときに不覚をとるつもりはありませんが、兄さんと離れるのは……」

「もちろんぼくも影から見てるし、危なくなったらすぐ助けるから」

「に、兄さんに助けられる──アリです!」


 ──というわけでおとり作戦を実行すると、まあこれが面白いくらい釣れた。


 その後の盗賊退治でも、この作戦は当たりに当たりまくって。

 具体的には五十近くあった盗賊の拠点全てで、スズハの放流から三分以内にヒットした。もう入れ食い状態だった。

 最初のうちはスズハが抵抗する演技に失敗して盗賊の首をへし折ったりと、盗賊たちの拠点に着く前に倒す失敗もあったけれど、それを差し引いてもスムーズに討伐は進んだ。

 早く次の魔獣討伐に行きたかったスズハたちが、やたら張り切っていたのも大きい。


 ****


 そんなこんなで。

 魔獣を討伐しまくってぼくが調理して舌鼓をうちつつ、その合間に盗賊討伐にも励んだ。その結果。


 およそ一ヶ月ほどで、無事に八十八箇所の拠点を全て討伐し終えたのだった。

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